「身分と給与は保障します。安心して働いてください」は嘘
大手繊維メーカーの子会社に在籍中、米系企業に買収された経験をもつ知り合いがいる。彼は買収後の顛末をこう語っていた。
「買収当初、アメリカ人は副社長ぐらいしかいませんでした。1年後にアメリカ本社から多数の外国人幹部がやってきましたが、アメリカ人のトップは『あなた方の身分と給与は今まで通り保障します。安心して働いてください』と宣言。日本人の社員は『いったい自分たちはどうなるんだ』と戦々恐々でしたが、接してみると外国人上司もやさしいし、日本人社員も『なんだ、いいやつばかりじゃないか』とホッとしたものです」
ところが、その後、大規模な組織・人事制度改革とリストラが実施されたのだ。
「今までやさしかった外国人上司も、一部の日本人社員に対して『あなたに上司は必要ない』、つまり『どこかに異動させて使っていく気はない』と言いだし、どんどん社員を辞めさせていったのです。幸い私は英語ができ、上司との関係も良好だったのでなんとか残ることができましたが、英語のできない多くの日本人社員は退職を余儀なくされました」
繰り返すが、合併によって会社の業績がどうなるかは別にして、被害を受けるのはいつも社員なのである。
▼「できれば社員全員を引き取ってください」
では、今回の希望の党と民進党の「合併」の場合はどうだろうか。
じつは企業の買収では、買収企業がどの程度の価値のある企業なのかをデューデリジェンス(精査)するところから始まる。会社にとって必要な技術や製品だけでなく、人材も一人ひとりチェックして選別し、交渉の場でその結果を提示する。
だが、身売りする側は、社員を路頭に迷わすことを避けたいので「できれば社員全員を引き取ってください」と訴える。そこで買収側は全員を引き取ることを条件に買収価格の引き下げを要求してくるという流れだ。買収後の負債となるかもしれない人件費負担を引き下げの材料に使うのだ。
身売り企業にとっては社員の身分と雇用の安定こそが大事だと考える。そのため安値で買い叩かれた上に、買収企業が提示する条件を丸のみするなど、言いなりになりやすい傾向がある。