「水素チェーン」は欧州にはまだない

【安井】なんとなくFCVはもう終わったみたいな感じになっていますが、そうではないと考えたほうが良さそうですね。世界でFCVの量産を始めているのは日本のトヨタとホンダだけです。

【清水】日本にはFCVをつくる部品のサプライチェーン、水素チェーンができている。ところが欧州にはまだない。BMWとトヨタはFCV開発で提携しています。僕はそこにメルセデスが入るんじゃないかなと見ている。というのは、日産がFCVの開発をやめましたから、メルセデスはパートナーがいなくなったのです。これはあくまでも私見ですが。

清水和夫氏(右)と安井孝之氏(左)

【安井】米国勢ではGMがホンダとFCVを共同開発している。ミシガン州デトロイトの南で燃料電池システムの量産工場をつくろうとしています。

【清水】GMとホンダのFCVはPSA(プジョー・シトロエン)グループになったドイツのオペルにも提供されます。フォードも仲間入りするかもしれません。そうするとGM、そしてオペルはフランスのPSAの傘下になった。PSAには中国・東風が出資している。従ってホンダとGM、フォード、オペル、PSA、東風というホンダを中心とする水素チェーン、水素アライアンスができる。

日本は「ガラパゴス状態」ではない

【安井】トヨタを中心とする水素アライアンスはBMW、メルセデスですか?

【清水】FCVではBMW・トヨタがもうひとつのグループですが、ここにメルセデスとアウディも入るかも。

【安井】そこまで清水さんが読むのはどこに根拠がありますか?

【清水】2000年にFCVの本を上梓してから、ずっと「FCVオタク」をつづけていますが、ドイツには水素や燃料電池スタックを扱うサプライヤーがいないのです。ご存じのように「メガティアワン(ボッシュやコンチネンタルのような巨大は部品メーカー)」にない技術はドイツメーカーも作れないですからね。日本メーカーは「ガラパゴス状態に陥っている」という見方もありますが、そうではなく新しいグループ化が進むということではないでしょうか。

【安井】日本メーカーにもチャンスがありそうですね。

【清水】冷静に上流から下流までを見て、世界的な市場性、つまりお客は何を求めているかというニーズとウォンツで見れば、2モーターのプラグインハイブリッドやFCVをやっている日本メーカーにチャンスがあると見るべきでしょう。環境技術では日本勢は負けてないよ、というのが僕の最近の考えです。

清水 和夫(しみず・かずお)
モータージャーナリスト
1954年生まれ。武蔵工業大学電子通信工学科卒業。1972年に自動車ラリーにデビューして以来、プロレースドライバーとして、国内外の耐久レースに出場。同時にモータージャーナリストとして、自動車の運動理論・安全技術・環境技術などを中心に多方面のメディアで活躍している。日本自動車研究所客員研究員。

安井 孝之(やすい・たかゆき)
Gemba Lab代表、フリー記者、元朝日新聞編集委員
1957年生まれ。早稲田大学理工学部卒業、東京工業大学大学院修了。日経ビジネス記者を経て88年朝日新聞社に入社。東京経済部次長を経て、2005年編集委員。17年Gemba Lab株式会社を設立、フリー記者に。日本記者クラブ企画委員。著書に『これからの優良企業』(PHP研究所)などがある。
(写真=AFP=時事)
【関連記事】
テスラ社長が「水素は愚か」と強がるワケ
「新車の4割」EV大国ノルウェーの裏事情
マツダ車はなぜ「みな同じ」に見えるのか
ディーゼルエンジン「満タン」で東京からどこまで行けるか?
トヨタ、新型「プリウスPHV」は本当に売れるのか?