お茶席で話題にしてはいけないこと
では、誰もが発言できる自由を得た今、自らの身を守るための「言わないこと」とはどんなことでしょうか? その参考になるのが、お茶席でのマナーです。
住職で裏千家の茶人でもある方のお話を伺ったことがあります。
お茶席とは、もてなす人と招かれた客とが対等な立場で、俗世間と切り離された空間を楽しむもの。だから、“俗っぽい話”は避けるのがマナーなのだそうです。それを表すものとして、次の言葉を教えてくださいました。
「我が仏 隣の宝 婿舅 天下の軍 人の良し悪し」
これは、利休の弟子、山上宗二が茶席で話題にすべきではないことを肖柏夢庵という連歌師の狂歌を引用して教えたものだそうですが、どれもが日常のコミュニケーションに通用します。
・我が仏
宗教についての話題。宗教や思想、信条など、人の根底にあるものです。自分とは異なる宗教を信じる人を批判したり、無宗教の人がうっかり否定的なことを言うと、侮辱したことになってしまいます。いわば、取り扱い注意の話題の筆頭です。
・隣の宝
財産について。「あの人の年収はいくららしい」と噂したり、「ボーナス、いくらだったの?」と聞いたりするようなことにあたるでしょうか。
・婿舅
愚痴の出やすい家族の話。親子、兄弟については、言いたいことも多々あるものですが、愚痴をこぼせば浮世の生臭さを茶室に持ち込むことになります。
・天下の軍
「天下のいくさ」と読み、政治についての話です。政治の話題は、とかくヒートアップにつながるものです。場の空気やメンバーの状態を敏感にくみとりたいテーマです。
・人の良し悪し
人の噂話、他人の中傷、批判発言です。
私は、これら5つを「舌、かせよ」で覚えています。
し(しゅうきょう)= 宗教(宗教、思想)
た(たから)= 宝(財産、経済状況)
か(かぞく)= 家族(両親、子ども、親戚)
せ(せいじ)= 政治(政治、経済、仕事)
よ(よし・あし)= 良し悪し(噂話、悪口、批判)
今、口にしようとしていること、あるいは書こうとしていることが、これらのどれかに当てはまるとき、
「本当に言うべきなのか?」
「発信すべきなのか?」
「情報を発する場として、この場、シチュエーションは適切なのか?」
「このタイミングで良いのか?」
など、一瞬でも考える習慣をもつことができれば、相手を目の前にした現実世界でも、あるいは不特定多数の人にむけたネットの世界でも、大きな失敗は避けられるでしょう。
上智大学外国語学部ポルトガル語学科卒業。商社、国際博覧会事務局、アーティストの個人事務所、輸入車メーカーなどを経て、2006年、日本を代表するエグゼクティブ・コーチング・ファーム、株式会社コーチ・エィに広報のプロフェッショナルとして入社。テレビ、新聞、雑誌、ウェブ媒体などに「システミック・コーチング」の情報を露出する他、19万人の読者をもつコーチ・エィ発行のメールマガジン「WEEKLY GLOBAL COACH」のコラム編集、広報誌発行、書籍出版企画などを行う。エグゼクティブコーチによる人気コラム「Coach's VIEW」の編集を、10年にわたり担当。コーチとしては、企業や医療、出版、教育などの分野で活躍するリーダー層にコーチングを行う。