コンサルなどの「アクセル役」も必要

このような強みと弱みにかんがみて、銀行が育成モデルを目指すにあたっては、「目利き」について事業に精通する外部の第三者と連携するのも一考ではなかろうか。連携先はたとえば百貨店のバイヤー、総合商社など、人材、技術力や商品から将来の成功の種を目利きするのが得意なところだ。対して、銀行は事業計画書などから将来の失敗の芽を厳しく目利きする。

より積極的な方法としては、仕入れ担当者以上の目利き力を持つ同業者を融資先に派遣する手も考えられる。現役の同業者を派遣するわけにはいかないので、たとえば大工場でカイゼン運動を担当していたOB人材や、経験に富んだプロ経営者などを送り込み、マンガ家に寄り添う編集者のようにアドバイスその他の支援をする。

地域全体の課題となるが、アクセル役の強化も必要だ。創業や経営革新にしてもある程度の数がないと、地域の所得向上には目に見えて貢献しない。銀行は、持ち込まれた事業計画書から返済能力を厳しく見極めブラッシュアップし、場合によってはふるいにかける役回りだ。この能力がしっかりするほどチャレンジは淘汰されるので応募数は多い方がよい。チャレンジの母数を増やす仕掛けが必要だ。この点は、自治体、商工会議所など公的機関の創業支援も期待できる。

マンガ誌の新人賞ではないが、創業や新規事業に夢を与え、志ある者をたき付けて、チャレンジ案件を増やす施策が有効だろう。ここで、事業を熟知するコンサルタントが、税務署に対する税理士のような役回りで、銀行との交渉にあたってのサポート役になる手もある。

地元経済と「一蓮托生」で成長を助ける

もっとも、手探りの状況ではあっても育成モデルに向けていろいろ試しているところだ。銀行主催の展示会やビジネスマッチング、経営コンサルタントの派遣事業、OB人材の仲介やビジネスプランコンテストも実際にある。とはいえ、こうした各種の支援策が広く拡大しかつ定着するにはなお講じるべき課題があろう。端的にいえば、手塩にかけて長年育てたにもかかわらずあらかじめ決められた元利金以上の収入が得られず、それ相応のインセンティブに欠ける。育成モデルの貢献度によって応分の果実が得られるような仕組みがあればよい。

当の支援を受ける企業から見た課題もある。創業や新規事業のスタートアップ時期や再生案件におけるリストラクチャリング時期など、支援が必要な時期にもいろいろあるが、それが成果に現れる時期には個体差がある。銀行融資の据置期間は契約時に決めるものであるうえ、極端に長くするわけにもいかない。企業の成長を待ち、儲けが十分でるよう成長してから返済を始める「出世払い」の仕組みがあればよい。

このような、銀行の資金回収、企業の返済があらかじめ決められた額、時期ではなく成長度合いに応じて額も時期も変動するシステムを導入するとなれば、もはや銀行の融資業務というよりはエクイティ性の資金を原資とする投資ファンドに近くなる。万が一にも毀損の許されない預金を原資とする金融機関、特に地元の決済ネットワークを担うインフラ業に近いところほど悩ましい。これも含めて、ビジネスモデル、いや、業界の文化のようなものの抜本的な転換が求められているということか。

投資ファンドに近くなるとはいえ売却益に焦点をあてた短期集中型の支援ではなく長期継続的な支援という点で異なる。地元経済と一蓮托生の面持ちで、投資ファンドのような手厚い支援を施しつつ企業の成長を辛抱強く見守ってゆくというものだ。互いに矛盾する要素を包み込みつつ、仕入れ担当者やOB人材、経営専門家などと役割分担あるいは相互補完しながら、新たなビジネスモデルの試行錯誤が続くだろう。

鈴木文彦(すずき・ふみひこ)
大和総研金融調査部 主任研究員
仙台市生まれ。1993年立命館大学産業社会学部卒業後、七十七銀行入行。2004年財務省に出向(東北財務局上席専門調査員)。08年大和総研入社、現在に至る。専門は地域経済、地方財政、PPP/PFI。中小企業診断士。
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