リーダーが恐怖に基づいて貢献を強いるのであれば、それがおかしいことに気づくことは容易かもしれませんが、話が厄介なのは、部下に自発的に貢献するように仕向けることがあるからです。

哲学者 岸見一郎氏

上司は言うのです。「私はやれとは言ってない、あくまでも部下が自発的に貢献しようとしたのだ」と。こうして、自発的な貢献が押し付けられます。

職場で「貢献感」を強調することは、「ブラック企業」の論理に近づきます。いわゆるブラック企業と呼ばれる会社が、会社にとって都合のいい「貢献感」を社員に押しつけている現実があります。新国立競技場の建設現場で働いていた方が自殺した事件もとても痛ましいものです。「東京オリンピック」へボランティアとして参加することを、じつは巧みに「上」から押し付けようとする働きがあることはとても正しいとは言えません。

巧みな貢献感の強要に断固として、自分の中から湧き出る言葉で反論できるようになってほしいと願っています。

そのために、自分が所属する共同体を越えた、もっと大きく普遍性のある「共同体への貢献感」を見いだし、一歩を踏み出すことが、「幸せになる勇気」なのです。

「嫌われる勇気」を持とう

最後に、「嫌われる勇気」という言葉への誤解についても触れておきましょう。嫌われる勇気とは、人のことを考えない嫌われ者が「嫌われてもいい」と身勝手に振る舞うことを勧める言葉ではありませんし、嫌われても言うべきことは言わないといけないと、他者に自分の考えを押し付けることでもありません。

現実の人間関係への不安を抱え、貢献感を持てないでいる人、他人との関わりを恐れている人に「嫌われることを恐れずに」、幸せへと飛び出していくことを後押しする言葉なのです。その勇気はむしろ部下の立場にある人こそ持たなければなりません。嫌われることを恐れ、上司の間違いを指摘せず反論しなくなれば、組織は衰退していきます。

岸見一郎(きしみ・いちろう)
哲学者。1956年生まれ。京都大学大学院文学研究科博士課程満期退学。主な著書に『嫌われる勇気』『幸せになる勇気』(ともに古賀史健との共著)、『人生を変える心理学』『幸福の哲学』などがある。
(取材・文=プレジデントオンライン編集部)
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