簡素な葬儀のメリットとデメリット
参列者の多い一般葬では、故人が亡くなった瞬間から葬儀が終わるまで、あいさつや気遣いのためにバタバタと慌ただしく、ゆっくりと故人の死と向き合う時間が取れない。
その点、家族や一部の親族のみで行う家族葬なら、堅苦しいあいさつや会葬者への応対は最小限で済み、落ち着いて故人を送ることができる。
しかし一方で、参列者を絞り、簡素な葬儀を選択したために、かえって面倒な事態に発展するケースもある。家族や一部の親族のみで葬儀を行った後、故人の友人や知人、呼ばれなかった親族などが故人の死を知って、気分を害してしまう場合や、「葬儀には呼ばれなかったけど、お別れを言いたい」「お世話になったので、線香をあげさせてください」という弔意を持った客がバラバラと自宅を訪れることなどがあるのだ。参列者への対応の煩わしさを軽減するために簡素な葬儀を選択したはずなのに、かえって対応に手を焼く事態に陥ってしまう。
また、家族葬や直葬など、簡素な葬儀であっても葬儀には変わりない。葬儀は決められた順序や形式で行う、“マスト(must)”の領域が多くを占めており、遺体の問題もあるので、準備や打ち合わせに時間をかけられない。そのため、結局じっくりと故人と向き合う時間が取れないまま、慌ただしく葬儀を終え、落ち着いた頃にようやく故人の死と向き合い、葬儀を振り返る心の余裕ができると、「本当にこれで良かったのか」など、罪悪感を抱き、後悔にさいなまれる遺族も現れてきている。
葬儀後になぜ? ニーズが高まる「お別れ会」
簡素な葬儀を選択したことによる後悔の念や、葬儀に参列できなかった人の弔意を拾う新しいサービスとして、葬儀とは別に「お別れ会」のニーズが高まっている。
「お別れ会」は、1994年にホテルオークラ東京(東京都港区)が開いた「故人を送る会」が始まりだといわれている。当初は、会社の役員や芸能人など、著名人が開くものとして広まったが、2010年頃には「お別れ会」をプロデュースする葬儀社や企業が全国各地で見られるまでに一般化した。
細かい段取りや礼儀作法などで画一化した葬儀と違い、「お別れ会」は「故人や家族が何がしたいか」「故人はどんな人だったか」がベースにあり、基本的に“ウォンツ(want)”で組み立てられる。葬儀を終え、遺族の気持ちの整理が終わる四十九日や一周忌のタイミングに行う場合が多いため、打ち合わせに十分な時間がかけられるのがメリットだ。「お別れ会」をプロデュースする企業側としては人件費などの負担が大きそうだが、それでも継続的に成長しており、2011年に「お別れナビ」というお別れ会サービスをスタートさせた日比谷花壇は、2016年9月時点で「お別れ会」実施件数が昨年比約1.5倍にまで伸びている。
2015年11月「お別れ会 Story(ストーリー)」のサービスを立ち上げた鎌倉新書によると、立ち上げ当初は、故人がまだ社会的なつながりがある10~50代が多く、「家族葬はしたけど『お別れ会』も開きたい」という家族からの依頼がほとんどだったという。しかし最近はそれに加え、「故人をしのぶ場を設けたい」という家族以外からの依頼が増えている。
故人が勤めていた会社の同僚や部下、趣味の教室・サークルの生徒や仲間から、「『お別れ会』を開いてもいいですか?」と家族に問い合わせが入るケースが出てきたという。家族や親族ではなく、故人の関係者たちからの働きかけによって「お別れ会」が実現する事例が増えているのは、「お別れ会」や「しのぶことの大切さ」が社会に浸透してきている証しともいえそうだ。