当然、ビジネスパーソンも交渉のテーブルにつく。自社の利益をできるだけ多く得るには、やはりロングスパンの視点や思考が必須なのだ。
ところが日本のビジネスパーソンにはそれがやや欠けていると原田氏はいう。
「私が、国内企業のグローバル人材の研修などをする際、『今、この瞬間、あなたの会社で何が起きていますか』と問うと、今起きている問題とその原因となる要素を並べてくれます。ところが、『3週間後、3カ月後、3年後どうですか』と聞くと全く答えられないんです。おそらく頭の中に、先のビジョンや時間軸というものがないのかもしれません」
仕事はデキる。だから、マネジメント職にもついているのだが、ロングスパンの時間軸やビジョンを持てない。このことが、突発的な出来事やトラブルへの対処のまずさや、社員を引っ張るリーダーシップの欠如につながるだけでなく、重要な案件での他社との交渉の席で、最適な判断ができないまま結論を先送りという体裁が悪いものにつながるのだ。
「戦略的な先送り」ができない日本、できるアメリカ。その差は国民性ではないかと原田氏は分析している。
戦略的な先送りには長期的視点が必要
「日本は、典型的なハイコンテクスト社会の国です。ハイコンテクストとは、わかりやすく言えば阿吽の呼吸で、人と人には暗黙の了解があり、言葉でそれほど説明しなくても相手に伝わる環境です。
一方、アメリカなどは対照的にローコンテクスト社会。人々の共通の知識・価値観に依存しないで、あくまで言語(説明能力や表現力など)によりコミュニケーションしていきます。つまり、話の中身をとても重視しているので、自然に理詰めで将来を展望していくことにもなります。
だから政治家や経営者は人の心をつかむシンプルで強いビジョンを語れるし、交渉にも強い。ケース・バイ・ケースで自分たちに利益をもたらす戦略的な先送りという手段を講じることも極めて上手なのです」
ハイコンテクスト社会の日本政府による、消費税10%実施の再延期も、確たるビジョンがあってしたことではなく、「選挙対策」(戦略的先送りではなく、単なる先延ばし)と指摘する声が多いのも、日本のお国柄の影響だろうか。
とはいえ、交渉時などに場当たり的な対応をして、判断の先送りをしてしまいがちな日本人でも、ローコンテクスト系の熟考習慣や、先読み習慣を身につけていけば、周囲から一目置かれる存在になれるかもしれない。
原田武夫国際戦略情報研究所代表取締役(CEO)。東京大学在学中に外交官試験に合格。12年間外務省に奉職しアジア大洋州局北東アジア課課長補佐(北朝鮮班長)を最後に自主退職。著書に、『世界を動かすエリートはなぜ、この「フレームワーク」を使うのか?』など多数。