仕事は「すぐ」やるのが鉄則だ。しかし、賢い「先送り」によって、仕事がはかどり組織で生き延びることができる場合もあるのだ。

進化生物学に学ぶ

「先送り」はどちらかといえばネガティブな言葉である。しかしその一方、ポジティブな面もなくはない。例えば、火事場の馬鹿力となるケースがある。先送りの連続で、デッドラインは目前。もう猶予はない。もし、それさえも先送りすれば、アウト。そんなタイミングでこそ力を発揮できる人もいる。

Active procrastination(積極的先送り)という言葉がある。追い込まれて先送りするのではなく、あえて自分を追い込むのである。

あるアメリカ心理学者が200人の大学生の行動パターンと性格の関係についての調査をした。その結果、わかったこと。それは、自信にあふれ、勉学に対する集中力が高く、効率的に時間を使っている人ほど、この積極的先送りをするケースが多いということだった。

先送りには、時間管理が下手、といったマイナスのイメージがあるが、そうではない先送りも存在するのだ。

心当たりのあるビジネスパーソンも少なくないかもしれない。締め切り効果で自分の持つ能力をフルにアウトプットすることで、面倒くさい仕事を一気に片づける方法はありなのだ(すべての仕事がそれだと大変だが)。

先送りを正当化する“援軍”はほかにもある。岡山大学大学院教授の宮竹貴久氏は、「先送りは生物学的に正しい」と語る。

「生き物の原点、それは“生きる”ことです。毎日を生きる。生き延びなければ、明日はない。生き物の世界には食うものと食われるものがあります。やるかやられるか。“殺戮”の世界です。これが現実です」

そう前置きしたうえでこう続ける。

「自然界では結果として、生き残れたものが強い。生物に求められるのは、次々と立ちはだかる苦境をやりすごすこと。襲いかかる敵をうまくやりすごす術と知恵を持つことなのです。それを“対捕食者戦略”と生物学では呼びます。そして、この生き物の中にひょっとしたら人間も含まれるのではないかと私は考えています。ビジネスパーソンにとっての死活問題、それは勤めている企業内外で起こることがほとんどでしょう。そこで、自分の立場を良くするのも悪くするのも、上司。上司に“食われない”ように、生き延びることが最優先課題です。そのとき有効なのが、前述の対捕食者戦略。とりわけ、時と場合により、先送りをする賢い知恵が必要なのです」