弱い者は自然淘汰され、強い者だけが生き残る。それが自然界の絶対のルールだ。人間も、その法則が適用される。とすれば、その先送り術はビジネスパーソンにとって必須のスキルということになる。

この生き物が実践している「先送り」に含まれる行為のひとつに「死んだふり」があるという。

「死んだふりをする。つまり動かないという行為は時に生き延びるのに最善の方法となります。ほ乳類から昆虫まで多くの生き物が天敵の前ではこれを実践し、効果をあげています。人間社会でも功を奏します(後述)」

「死んだふり」の生存率は93%!

宮竹氏によれば、ニワトリは天敵の野犬に噛まれると一瞬、だらっとして動かなくなるという。すると、野犬は慌ててその獲物を放してしまう。そのスキにニワトリは逃げる。窮地をしのぐことができたのだ。

また、クワガタ虫などの甲虫を捕らえようとすると、止まっていた草木から落下して動かなくなることがある。甲虫の体の色は、地面の土の色に似ており、それを探し当てるのは難しい。

さらに、ハエトリグモとコクヌストモドキという甲虫をシャーレに入れて観察すると、クモは甲虫を襲うものの、動かなくなった獲物をやはり放す。死んだふりをする甲虫の生存率は93%だった。しかしこれが同じ甲虫でも襲われても死んだふりをせず動き回るタイプもいて、その場合、生存率は36%と低下する。

どうやらクモは、動かないものを食べ物でないと認識し、ちょろちょろ動き回るものをエサだと認識して、捕食するというのだ。この傾向が人間社会にもあると宮竹氏は語る。

コクヌストモドキ(甲虫)には、死んだふりをするタイプとしないタイプがある。実験では、前者の14匹中13匹が生き延びたが、後者は14匹中9匹がクモに食べられてしまった。後者は、天敵を前にしても動き回り続けたことで、クモにエサと認識された。

「死んだふりの有効性は、企業の人事や業務の割り振りなどでもしばしば見られることです。誰かが担わないといけないハードルが高めの仕事、誰かが務めなければならないハードな出張、誰かがやらなければならない面倒くさいミッション……。もし、その仕事が得意なら別ですが、そうでなければ、下手に手をあげたり、首をつっこんだりするとかえってやぶ蛇となることがあるでしょう。マイナス評価の対象となったら、死活問題となるかもしれません」

通常、社内的には、自分の存在感が大きいほうがいいが、案件によっては“気配”を消す芸当を身につけるべきなのだ。敵(上司)の注意を他者(他の同僚や部下など)に向かわせて、自分は助かる。逃げるのではない。判断をいったん保留して「今は(仕事を引き受けるか否か、などを)決めない」ということを決めるのだ。