中小企業でもできる世界進出への鍵とは

質を重視した取り組みは、ユニクロに限らず、他の日本企業でも取り組み始めています。こうした動きを、私は「QoX(Quality of X)」経営と呼んでいます。「X」の部分には、食に関わる会社なら「イーティング」、住まいに関わる会社なら「リビング」など、自社がクオリティを追求すべきものが入ります。QoXを追求することで、大企業だけでなく中小企業も世界に展開できる可能性があります。例えば、日本のケーキ屋さんがつくるケーキの味や形のクオリティの高さは、世界に通用するレベルです。同様の産業は、日本中にあるはずです。

老舗企業にも、世界に打って出るチャンスがあります。日本には長寿企業が多いですが、零細なところが少なくありません。伝統芸や民芸品のレベルで終わらせることなく、製品・サービスの核となっている心地よさや、心の琴線に触れる部分をうまくプロデュースしていけば、市場を世界に広げていくことも夢ではないでしょう。東京オリンピック・パラリンピックが開催される20年に向けて、日本へのインバウンドが増加している今こそ、そのよさを知らしめる絶好の機会です。

最後に、J-CSVの代表的な企業を2つ紹介しましょう。

中川政七商店は奈良で300年続く麻織物の問屋でした。現在の13代目が、日本の工芸をベースにしたSPA業態の生活雑貨ブランドを立ち上げ、全国に展開しています。また、「日本の工芸を元気にする!」というビジョンのもと、工芸メーカーに特化した経営コンサルティングも行っています。

もう1つが、アウトドア用品メーカーのスノーピークです。アウトドアというと愛好家に向けたものになりがちですが、同社は「自然と共に生きることにより人間性を回復するライフスタイルの提案」をミッションに掲げ、燕三条の優れた職人をネットワーク化して質の高い製品を生み出しています。

さまざまな分野で、マズローの「自己超越欲求」に該当するレベルを伝統的に体現してきた日本は、世界のベストプラクティスになる可能性を秘めています。ユニクロがアパレルの世界で成功したように、CSVを日本的価値観で捉え直せば、業界や規模の大小を問わず、どんな企業にもグローバルで成功するチャンスがあるのです。

(構成=増田忠英 写真=時事通信フォト)
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