余裕と幅のない産経社説の主張
朝日社説のように嫌味や逆手に取ることがなく、ひたすら「敵基地攻撃能力」の導入を主張するのは、産経の社説(9日付)である。
書き方に工夫がない半面、書き手の実直さが伝わってくる。ただその主張自体に余裕と幅がない。これが産経社説の最大の欠点である。そこが好きで購読している読者もいるようだが、そうした読者は多くはないようだ。だから部数が伸びずに低迷を繰り返していると聞く。
そんな産経社説は公表された防衛白書をもとにこう書く。
「もはや、政権への風向きなどを気にして、ためらういとまはない」
「安倍晋三首相は敵基地攻撃能力の自衛隊導入を決断し、小野寺五典防衛相に対して具体的検討を指示してもらいたい」
「国民を守るためには、弾道ミサイルを迎撃するシステムの強化だけでは不十分だ。日本をねらうミサイルの発射拠点や装置をたたく能力を自ら保有すべきである」
果たして産経社説の主張のように「敵基地攻撃能力」によって北朝鮮の脅威が消えてなくなるのだろうか。この沙鴎一歩には大きな疑問である。
なぜならば、日本が戦力を強化すればするほど、北朝鮮は強く反発するだろう。「目には目を、歯には歯を」では悲惨な戦争を繰り返すだけである。抑止力で留まっていればいいが、一線を越える危険は常にある。最後は核戦争になる。日本の戦力強化には、いまだ日本を敗戦国扱いにする中国やロシアも黙っていないはずだ。
「敵基地攻撃能力」開発予算はどうするのか
「首相はすでに、防衛力整備の指針である『防衛計画の大綱』の見直しを小野寺氏に命じた。見直す分野として、南西地域の防衛や弾道ミサイル防衛の強化、宇宙・サイバーを挙げている」
「脅威に対応して防衛力を強化する姿勢は妥当である。しかし、自衛隊が保有していない敵基地攻撃能力について『現時点で具体的な検討を行う予定はない』と述べているのは物足りない」
「新大綱の閣議決定は来年12月とされる。予算化が図られるのはさらに後だ。北朝鮮の暴走にいつまで手をこまねいているのか」
実にストレートな表現が続く。繰り返すが、問題なのは産経社説の表現ではなく、バランス感覚を失った一方的な思考である。
保守で固まった安倍政権の防衛政策を「物足りない」とまで言い切るのだから、たいした度胸である。それに敵基地攻撃能力を開発するための巨額な予算や高度な技術力はどうするのか。
「敵基地攻撃能力」の保有は合憲?
そもそも敵基地攻撃能力とは具体的にどんな兵器を指すのか。そう考えて読み進むと、産経社説には次のように書く。
「日本としては、攻撃のための航空機や精密誘導爆弾・ミサイル、長距離を飛ぶ巡航ミサイル『トマホーク』に加え、敵の発射拠点の把握や空中給油などの装備を順次整えていけばよい」
「自衛隊が一定の攻撃能力を持つことは、国民の命を守る上で死活的に重要だ」
こう主張したうえで「政府は敵基地攻撃能力の保有は合憲との見解を長くとってきた。憲法の平和主義の精神に反するといった反対論は、国民を危険にさらすことになる」と強調する。
敵基地攻撃能力の保有は合憲? 反対論が国民を危険にする? 果たしてそうだろうかと思って次を読むと、産経社説は「あくまでも自衛のための能力であり、侵略とは結びつかない」と弁明する。この辺りは産経社説も自信がないのだろう。まだまだ議論すべき余地がある。