「夫は外で働き妻は家庭を守る」という性別役割分業が当たり前の時代であれば、夫婦はお互いに相手の領域には不可侵という前提ですから、このような問題は少なかったと思います。しかし現在では夫婦は共同で生活を経営するパートナーといった位置付けを強めています。経済や仕事について女性もある程度経験を持っていますし、家事や食べ物、服の好みなどについて意見を持つ男性も少なくありません。これに加えて、結婚前に恋愛や性行動について自分なりの経験が蓄積されているという状況があり、結婚後の生活についての不満に気づきやすい状況にあるといえます。
このように考えると、結婚後に生活のギャップに直面して苦しむのは「若くして結婚した」スターター・マリッジ固有の問題ではなく、全ての人に起き得る問題のように思えます。
寿命が伸びるほど熟年離婚は増えてゆく
結婚後5年以内に離婚する夫婦が多いというのは、日本では戦前から一貫して維持されている状況です。しかし離婚全体で見ると5年以内の離婚はむしろ減少傾向で、逆に増加しているのは20年以上同居した夫婦による離婚となっています。これはもちろん高齢化の影響です。平均寿命が短かった1980年代頃までは、結婚して子育てが一段落したら夫婦のどちらか(多くの場合夫)が体を壊すなどしていたために、 夫婦二人だけで過ごす時間はそれほど長くはありませんでした。
しかし最近は子育て終了後夫婦だけで過ごす期間が長くなっていて、1927年生まれでは4年程度だったのが1968年生まれだと16年間になると試算されています。夫婦のギャップを何十年も燻らせたままに婚外恋愛に走ったり、子育てが終わった後で離婚したりといった問題はこれからますます大きくなっていくと思われます。
スターター・マリッジに代表される夫婦関係の問題を見てみると、結婚したから安泰ということは決していえないという現実が見えてくるのではないでしょうか。生涯未婚時代には、日本では戦後に一気に普及したスタイルである「近代家族」を再検討する必要があるのです。
社会学者
1973年、長崎県生まれ。2004年早稲田大学大学院にて博士(人間科学)取得。現職は兵庫教育大学大学院学校教育研究科助教。専門は家族社会学。共著に『入門 家族社会学』(新泉社)、『ポスト〈カワイイ〉の文化社会学』(ミネルヴァ書房)。