今回の未曾有の災害に際して、私たち日本人の対処の仕方が立派であったと、海外のメディアが賞讃しているという。

<strong>脳科学者 茂木健一郎</strong>●1962年、東京都生まれ。ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー、東京工業大学大学院連携教授。『脳と仮想』『脳をやる気にさせるたった1つの習慣』など著書多数。
脳科学者 茂木健一郎●1962年、東京都生まれ。ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー、東京工業大学大学院連携教授。『脳と仮想』『脳をやる気にさせるたった1つの習慣』など著書多数。

私たちの祖先は、しばしば大きな自然災害に見舞われている。人事を尽くすのは当然。しかし、いざ想定外のことが起こってしまったら、仕方がない。必死になって前向きに頑張る。そんな「文化的DNA」が、私たちの身体に染みついている。

思えば、震災前の日本は、どこか変であった。物事の本質から見れば些末なことに、メディアが狂躁し、多くの社会的リソースが費やされた。大変な事態の発生を前に、そのような日本の「病気」は、一気に吹きとんでしまったように思われる。

被災地の受けた苦しみは、想像を絶する。復興は長い時間を要するだろう。原発の状況は予断を許さない。電力不足も、長期化する見込み。私たちは、これから、曲がりくねった苦難の道を歩まなければならない。

希望はある。日本人は長らく、「プリンシプル」(原理・原則)を欠くと言われてきた。しかし、そうではなかった。私たちは、些事に惑わされて、本質を見失っていただけだった。戦後最大の危機に直面した今、私たちは自分たちの中に大切なものが生まれつつあるのを感じている。

自らの内なる、プリンシプルの芽を育てよう。いつか必ず、大輪の花が咲くことを信じて。

(鷹野 晃=撮影)