「吉牛」「スタバ」と共通する教訓

ちょっとネタばらしになってしまいます。「マクドナルド」が店舗拡大する中で、ミルクシェイクの原料を保管する冷蔵庫の電気代がかかりすぎるから、「粉末のミルクシェイクにしよう」と意見が出て、それをやるかやらないかで大論争となります。私はこれを観て、かつて「吉野家」の牛丼がダメになった時の話を思い出しました。

新店舗の前で得意げに両手を広げるマイケル・キートン演じるレイ・クロック。(C)2016 SPEEDEE DISTRIBUTION, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

1980年に「吉野家」は115億円もの負債を抱え、一度倒産しています。その原因の1つが、店舗の急拡大に伴う出店費用を抑えるために品質を下げたことでした。かつてはワインの効いた生タレの液体を店舗に運んでいたのを、本部が各店舗に、価格が安い粉末のタレを溶かして使うよう指示し、フリーズドライ肉と呼ばれる乾燥肉も使ったのです。

その結果、どうなったか? 味がまずくなっただけでなく、店内から牛丼のいい香りも消えてしまいました。後に同社の社長・会長を務めた安部修仁(しゅうじ)さんらが本部に呼ばれて、必死になって再生を果たします。評判の悪かった粉末のタレを生タレに戻し、一部を除いて乾燥肉も取りやめたのです。

私は1979年8月にNHK東京放送局の社会部に異動し、警視庁などを担当した時期でした。吉野家の新橋店で何度も慌ただしく牛丼を食べていたので、当時のことはよく覚えています。

また「スターバックス」も似たような失敗をしています。現在は日本国内でも焙煎所つきの店舗がありますが、一時期、工場で一括焙煎したコーヒーを各店舗に配送するようにしていました。すると、店頭からコーヒーのいい香りが消えてしまったのです。

どこのチェーン店でも、店を急拡大する時には効率化を考えますが、「やってはいけない効率化というものがあるのだな」と学ばされます。それは何かといえば、「お客さんに支持されてきた商品」という“本質に関わる部分”です。結局、マクドナルドは粉末のミルクシェイクを採用しなかったのですが、それで正解だったと思います。