日本中が注目する若い社長との二人三脚

生え抜きで営業畑の小早川社長と外部から迎え入れられた技術畑の川村会長。どのように連携を取り、お互いの強みを生かしていくか。

「真夜中の便でバンコクを立ち、朝6時に羽田に到着し、そのまま会社に向かう。グローバル企業の社長はそんな働き方が当たり前になりつつある。そういった企業と比べると東電は遅れていますが、体力勝負という側面があるのは事実で若い社長じゃないと難しい。ただ、若い社長は経験が足りないことがあって、“年寄り”が補う必要があるかもしれない」

小早川社長も先日の弊誌の取材にこう語っている。「経営陣が若返ったことで、主体性を持って様々な問題に取り組める体制になると同時に、経営に対する稚拙さも出てくるかもしれない。ある程度の距離から、経営がおかしいことにならないように、早めに審査いただき、助言、指導をいただけるような関係をつくっていきたい」。

廃炉作業が続く福島第1原発。(写真=時事通信フォト)

理想的にも見える新体制だが、スタート直後、トラブルが起こった。6月27日、小早川社長は双葉町の仮役場を訪れた。双葉町は言うまでもなく、福島第1原発の所在地。事故後6年たった現在も全町避難が続いており、仮役場もいわき市に置かれている。伊澤史朗町長との面会後、小早川社長は記者会見に臨んだ。

「一部、避難が解除された区域がございますので、まずはそちらの方にご帰還いただけるよう、しっかりと取り組んでまいりたい」

社長のこの発言に、複数の記者が即座に反応した。

「双葉はまだ解除されていない。誰一人帰ってない」「解除されていないがそのあたり、認識をされているのか」

双葉町は事故後、全域が警戒区域とされていたが、13年5月に町のほとんどが帰還困難区域に変更され、町のごく一部、北東部分が避難指示解除準備区域となった。しかし、避難指示解除準備区域であっても、住民は、原則、宿泊も不可能で、一時的な帰宅しか許可されていない。

その後、小早川社長は「避難指示解除準備区域の今後の復興拠点のことが念頭にあり、春から避難が解除されたエリアと取り違えて誤解を招いた。おわびする」と陳謝したが、被災地住民を中心に、新体制への不安を残してしまった。川村会長はこう話す。

「間違い自体は大変よくないことで、現地の方々の気持ちを傷付けてしまいました。ただ、いろいろな地域を回り、首長の方々とお話ししたことは、社長も大変勉強になったと話している。その経験は、言い間違いも含めて、この後いろいろ役に立つはずです」

名経営者とされる川村氏の手腕は確かなものだろう。ただし、日立製作所と東電では大きな違いが1つある。そもそも東電が改革を迫られている背景には、今なお住み慣れた土地から避難せざるをえない住民たちをはじめ、原発事故の被害者が数多く存在するということだ。決して容易ではない、川村氏の新たな挑戦。その舵取りに日本中が注目している。

(撮影=村上庄吾 写真=時事通信フォト)
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