「大切なのは、怒りを否定してはいけないこと」

取り扱いに苦労する怒りという感情。どうすれば上手にコントロールできるのだろうか。

「怒らない魔法のような方法はない。大切なのは、怒りを否定しないこと」

精神科医の片田珠美先生はそう語る。

*筆者が編集担当をした「お受験中の母が絶対叱らないための10の方法」の記事。怒りをコントロールするための10個のテクニックを片田先生などに聞いている。イラスト=渡辺鉄平

プレジデントFamily編集部では、別冊ムック『日本一わかりやすい小学校受験大百科 2018完全保存版』のなかで、「わかっているけど怒ってしまう人のために お受験中の母が絶対叱らないための10の方法」というアンガーマネジメントの特集を組み、片田先生を取材した。

小学校受験は「わが子によりよい教育を与えたい」という親の思いから始めることがほとんどだ。だが、幼児を相手にさまざまな課題を教えるのは難しいため、ついキレてしまう。萎縮するわが子を見て、なんで怒ってしまうのだろうと悔やむお母さんがたくさんいるのだ。この取材で最初に片田先生に言われたのが、上記の「大切なのは、怒りを否定しないこと」という言葉だった。

子どもにキレる人は「母子一体感が強すぎる」

「怒りとは、『自分にはうまくいっていないことがある』『問題がある』という大切なサインです。それを無理に抑え込んだり、気づかぬふりをしたりすると、いつしか爆発してしまう。この爆発を防ぐには、自分の中にある怒りを認めて、その理由と真摯に向き合うことが大切です。逆説的ですが、『怒り』を大切にすることで、表出方法をコントロールできるようになるのです」(片田先生)

「怒りを大切にする」といっても、もちろん、豊田議員のように感情を野放図にぶちまけることではない。自分は怒っている。マグマのような感情が湧き出ている。まず、自分が怒っていることに気づいて、認める。そして、湧き上がってくる怒りの原因は何なのかを考えて、本質的な問題解決に取り組むことをいう。

「たとえば、母親が子どもに必要以上にキレてしまうのは、自分の思い通りにならないことに対するいら立ちです。子どもを思い通りにしたいと考える深層心理には強すぎる母子一体感があります」

母子一体感とは、文字通り子どもと自分が一心同体のように感じる心理だ。子どもがまだ小さく、親の世話を必要としている時期に、母子がこのような心理状態になるのは、ある意味、自然なことである。しかし、その度が過ぎると、子どもにも意思があるということを忘れてしまう。

「特に、高学歴でバリバリのキャリアウーマンのようなお母さんは、子どもができない理由がわかりません。子どもの失敗が自分の経歴に傷をつけるように感じ、怒ってしまう。逆に劣等感があって、子どもで挽回したいと思っている親は、子どもへの要求が過度になりがちです。もし、心当たりがあったら、怒りの原因は強すぎる母子一体感にある可能性が高い。まずは、『子どもは自分とは別人格』と認めることが第一歩。こう思えるようになるだけで、かなり冷静になれるはずです」