定年退職者が社会とつながることを考えてみると、おおむね3つのパターンがある。

一つは、組織で働くという選択である。これは雇用延長で65歳まで元の会社で引き続き働くケースや関連会社で働く場合もある。またハローワークや民間の人材紹介会社、知人に紹介してもらうこともあるだろう。

二つ目は、以前の会社での業務と関連のある仕事に就く人たちだ。保険会社で営業を担当していた会社員がキャリアを生かして保険代理店を始める、技術者がその専門性を生かしてコンサルタントに転じる場合などだ。

三つ目は、今までの仕事とは全く違う生き方に取り組むケースもある。蕎麦屋を開店したり、農家で独立するといった起業するケースもあれば、陶芸に打ち込んだり、昔の音楽仲間と一緒にバンドを組んだり、僧侶になっている人もいる。

お金を稼ぐことが成長を促す

どのような社会とのつながりを目指したとしてもそこには優劣はない。大切なことは自分の向き不向きを見極め、自らの個性で勝負できるものに取り組むことだ。定年後の60歳から75歳までは、家族に対する扶養義務からも比較的解放されて、他人の介助を受けずに裁量をもって行動することができる。私はこれを「黄金の15年」と名付けてみた。人生後半戦の最大のポイントであり、自分ならではのものを見出したいものである。

また留意点としては、何に取り組むにしても趣味の範囲にとどめないで、わずかでも報酬をもらえることを考えるべきである。もちろんお金儲けを目的にせよと言っているのではない。しかし何かのモノゴトに取り組むときに、他人の評価をお金に換算する感度は持っていたほうがいい。たとえ交通費や寸志であっても収入があるということは、その瞬間に単なる趣味ではなくて社会的な活動に転化する。またお金を稼ぐレベルを目指すことが自分の力量をアップすることにつながる。

私が執筆に取り組み始めた頃、「たとえお金が稼げなくても、いい文章を書いていきたい」と話すと、私淑していた先輩は「それではダメだ。そんな言い方をしないで、明確にビジネスと位置づけた方が自分をグレードアップできる。お金にもこだわることだ」と忠告してくれた。大切なことは、社会的な要請に応えられるレベルの指標としてお金の価値をうまく使うことだ。