消費者がソニーに期待するものとは
エレクトロニクス業界を取り巻く環境はもはやかつてのそれではない、と言われればそうかもしれない。ソニーの事業規模もまた、昔日のそれではない。とはいえ、 デザインの自由度が大きく、"液晶の次のディスプレイ"とも言われる有機ELというテレビの基幹部品を他社から調達し、その最終製品の違いを画像エンジンと音響に求めるという同社の姿勢に疑問を抱くのは、筆者ひとりだけだろうか。
テレビ事業とは対照的に、違いを生むのが難しいとして切り離されたパソコン事業について、ひとつ付け加えておきたい。創業以来パソコンの最終製品の開発製造は自社の役割ではないとして、いわゆるハードウェアベンダーに委ねてきたマイクロソフトは、2012年から「サーフェス」というタブレットPCを実際に製造・販売している。マイクロソフトがあえて「違いを求めるのが非常に困難」という領域に参入しているのには、それなりの意図、勝算があるからではないだろうか。
もうひとつ気になることがある。有機ELディスプレイと同じく、かつて製品として存在しながら、現在の製品ラインアップから姿を消したものに、ロボットがある。昨年6月の経営方針説明会で、平井氏は「ロボットへの再参入」を明言した。しかし、誠に残念なことに、今年の説明会の席上、平井氏がロボット事業に触れることはまったくなかった。かつて日米をはじめ世界的に大きな注目を集めた独創的なロボット「アイボ」をつくったソニーに対して、次の展開を期待している人は決して少なくないはずだ。
平井氏はある記者の「ソニーは何会社なのか」という質問に対し、「ひとことで言えば、ソニーは感動会社」と述べた。そして、エンターテインメント、生命保険、エレキの各領域を通じて「消費者に感動を与えることが一番の上位概念」と付け加えた。
あえて付け加えれば、感動という言葉には一方通行のイメージがある。
しかしアイボは感動を与える製品だったのだろうか? 筆者は初めてアイボをみたとき、「感動」よりも「共感」を覚えた。一方通行ではなく、会話に象徴される双方向の感覚があった。今の消費者がソニーに期待するものも、そうした共感ではないだろうか。