ロフトの社長になってから、数多くのお店を接待で使いました。新規出店するごとに、銀行、地域の不動産屋さん、地主さん、仕入れ先など、いろいろとお願いして回るのが私の仕事でしたからね。料理も接客も素晴らしい店はたくさん知っています。
安森 健
1944年生まれ。学習院大学経済学部卒業後、西武百貨店入社。85年より西武筑波店店長、外商事業部長などを経て、商品部ロフト事業プロジェクト部長に就任。96年「ロフト」設立時に代表取締役就任。全国50店舗を数えるチェーンに。2008年、取締役相談役。その後、イオン顧問などを務める。
でも今回、「人に教えたくない店」を教えろということですから、普段の接待では使わない、特別な店を教えますよ。どちらも西武筑波店の店長をしていたときに初めて連れてこられて以来、約30年通っている。僕の中で最も古い“馴染み”の店ですね。
2つの店には共通点があります。まず、メーンのコースが1つしかないこと。「龍水楼」は、北京料理の子羊のしゃぶしゃぶ「涮羊肉(シュワンヤンロウ)」。「鳥栄」は「しゃも鍋」。次に素材が美味しいこと。龍水楼はニュージーランド産のラム肉、鳥栄はコクがあり食感のいい東京しゃも。そして、自分で調理するから、自分好みにできること。最後に、おかみさんの気配りがいいこと。心地いいのが一番だからね。
龍水楼は前菜4品から始まり、海老の揚げ物、子羊のしゃぶしゃぶ、野菜、餃子、麺と、おかみさんのペースで進んでいく。たまげるのはデザートだよ。三不粘(サンプチャン)は北京の「同和居」という店で出されているもので、日本で毎日作っているのはここの親父しかいない。杏仁豆腐がまた絶品でね。一緒に行った連中からは「あの三不粘と杏仁豆腐が食べたいからまた連れてってよ」って言われるぐらい。
鳥栄は、一度行ったら確実に癖になるね。東京しゃものいろんな部位を鍋で食べる。最高に美味いんだけど、最大のウリは「つみれ」。卵をかき混ぜて、自分たちで鍋に落として食べる。ふわっふわで、たまらない。食べる直前に叩くから、大将が包丁で「トントントトン……」って肉を叩く音が階下から聞こえてくるとさ、それだけで嬉しくなるよ。そうそう、先代の親父はおっかない人で、ビールは1人2本、日本酒は2合まで。「それ以上飲みたきゃ飲み屋に行け」と叱られたよ。でも食べ方から飲み方まで、全部教わったね。
この2つの店に一緒に行くっていうのは特別なんです。鳥栄は2カ月先の予約が取れれば幸せという店ですから、まず日程を決めて、それから誰を誘うか決める。龍水楼は5人以上で予約して、6時半には全員揃わないといけない。だからね、この店に呼ぶというのは、接待の先。「仲間になろうよ」というお誘いなんですよ。