「基本的に利益相反しない」
在宅勤務で業務効率が上がれば、おのずと残業も減る。しかし、それでは給料に響いて困る人が増えるのではないか。
この質問に対し、日産自動車ダイバーシティディベロップメントオフィス室長の小林千恵氏は「弊社はもともと現場の人間の残業が少ないんです」ときっぱり。同社は1999年の仏ルノーとの提携以降、ホワイトカラーの生産性向上に取り組んできた。「残業は基本しない、という意識が全社員に徹底されています」(小林氏)。
成果主義が色濃いリクルートはどうか。同社働き方変革推進室室長の林宏昌氏は次のように話す。
「リクルートはもともと『仕事の報酬は次の仕事』と考えて、猛烈に働いてきた会社。しかし、仕事以外でも人は成長できるのではないか、という新しい考えのもと、残業はむしろ少しずつ減ってきています」
ほとんどの社員は裁量労働制(みなし残業)で勤務しているため、在宅勤務で給料が減るという不満はない。
一方、一般に残業時間が多いといわれているのが金融機関だ。三菱東京UFJ銀行では、特に本部のマネージャー職で多いという。
昇進するほど業務が過酷になる現状に、同行人事部企画グループ次長の佐伯哲哉氏は、「この構造をなんとかしなきゃいけない、という目標もあった」と、在宅勤務制度の導入に至った理由を説明する。しかし、今のところ制度の対象は、本部を中心とした企画業務の従事者か、育児や介護を目的とする行員に限られる。
企画職はもともと裁量労働であるため、残業代は固定。育児・介護の必要がある者は残業代を重視しないため、「現状では基本的には利益相反しない」(佐伯氏)という。
「今後、営業職などへの部分在宅勤務の導入を検討していく際には、これらの職種への裁量労働制の導入も含めた、勤務体系と賃金体系の抜本的な改革が必要になるでしょう」
マネージャー職の残業問題は、その先の話だ。
「賃金制度の再検討も必要」
安倍政権が掲げる「長時間労働の是正」。企業はどうすれば、働く人たちの給料を下げることなく、残業を減らすことができるのか。一般社団法人日本テレワーク協会会長の宇治則孝氏は言う。
「根本的には、日本企業の賃金制度そのものを見直さなければなりません。アメリカのように、時間ではなく、ジョブディスクリプション(職務記述書)に沿って成果をはかり、給料を支払う仕組みを検討することも必要でしょう」
各企業の在宅勤務への取り組みは、まだ始まったばかり。「働き方改革」の第一歩として、注視していきたい。