今年のトップ交代劇で、最も話題になった会社は、富士通をおいてほかにあるまい。解任された野副州旦元社長が、公開質問状を送ったうえ、裁判所に取締役としての地位保全申請を行うなど、富士通と真っ向ぶつかった。さる6月には、裁判所がこの申請を却下し、富士通側の主張を認めた形となっている。
野副の後を暫定的に引き継いだ会長兼社長の間塚道義から、山本正已は後継者に指名された。くしくも年齢はNECの遠藤と同じく56歳。歴代の富士通社長では、山本卓眞に次いで、二番目に若い年齢での就任となる。
この山本、とにかく熱く、負けん気も強い。野副解任をめぐるごたごたを社員にどう説明しているかと訊くと、堰を切ったようにこう答えた。
「富士通には、『富士通ウエイ』という、社員が守らなければならない、ある意味では憲法がある。憲法にそむいた人は、社長であろうと、だれであろうと辞任してもらう。そのくらい富士通は、世の中に対して自分を厳しく律している、ということです」
こちらが「権力闘争ではないんですね」と問うと、「権力闘争ではまったくありません」と、言下に否定した。
では、その山本は、現在の経営環境をどう認識しているのだろうか。
「従来からいわれていた『コンピュータとネットワークの融合』が、まさに本当の意味で可能になった。クラウドコンピューティングという新しいテクノロジーによって、ICT(情報通信技術)のすそ野が一気に広がる転換期に来たと思っています」
山本は、クラウドコンピューティングにおける富士通の強みを「垂直統合」という言葉で説明する。
「我々は、コンピュータとネットワークの両方の技術を持っている。クラウドコンピューティングを、一番下(プラットフォーム)から上(アプリケーション)まで、垂直統合でつくり上げられる。さらにそれにつながる携帯やパソコンといった端末もある。そんな会社はない」