ライバルを見渡せば、IBMにはネットワークと端末がなく、HP(ヒューレット・パッカード)にはネットワークがない。しかし、逆にいえば、それぞれのビジネス規模が小さいともいる。この弱点を補うために、「足りないところは、グローバルにトップレベルのベンダーとアライアンスを組んで、太い垂直統合にしていく」という。この言葉が示すように、この7月にはマイクロソフトとクラウド分野での提携を果たした。

ただ、クラウドを軸としたサービス会社への変身という点では、事業戦略はNECとほぼ同じ。その点を問うと、「富士通のほうが、圧倒的にグローバル化が進んでいる。それにお客様密着度が強いと、僕は思っています」と返ってきた。

富士通の海外展開は、1990年代の米アムダール社、英ICL社の買収が、その基礎になっている。だから、それぞれの独立性を尊重しながら、国際展開を進めてきた。いわばマルチカルチャーだ。山本は他社との違いを強調する。「IBMのようにモノカルチャーで、一つの考えを世界に強制するほうが勝つか、各リージョンのカルチャーを活かしながらまとまっていくやり方が勝つか。そういうことだと、僕は思っている」

2000年のITバブル崩壊以降は、収益力の回復と財務体質強化ばかりに目を向けざるをえなかった。財務体質の強化にほぼめどがついたいま、山本は「攻め」に転じると宣言する。

「いま社内でいっていることは、チャレンジ&スピード。もともと富士通は、『ともかくやってみよう』という会社。もう一度、そのDNAを呼び戻したい」

山本は山口県の出身。尊敬する人物には吉田松陰を挙げる。

「あの人はとにかく行動派だった。世の中を変える先駆者として、思想だけではなくて、行動でも示した。その行動力に、ものすごく感心、感動している」。

熱き長州人が、野武士・富士通の再現に挑む。(文中敬称略)

(門間新弥=撮影)