高価格帯ヘッドフォンが売れてきている
ヘッドフォンにいくら出せるだろうか。ヘッドフォンにはお金をかけない、付属のもので十分という方も多いはずだ。MDR-1000Xは1台で3万9800円という、高価格帯に属するヘッドフォン。しかし、世界的に高い評価を得て、発売以降好調な売上げを続けている。
イギリスの大手の権威のあるオーディオ評論メディア「What Hi-Fi?」https://www.whathifi.com/)では、2016年のベストノイズキャンセリングヘッドフォンの高価格帯部門でファイブスターを受賞。CES2017ではイノベーションアワードを受賞。このほかにも数々の受賞歴がある。
「想定以上の大きな反響をいただいています。この価格帯のヘッドフォンが世界中で売れるというのは難しいのですが、いろんな賞をいただいて、それも相まって国内外のお客様から非常に好評をいただいています。ソニーのヘッドフォンでも、この価格帯でこれだけ売れているモデルというのは滅多にないです」(大庭寛氏)
黒が主流のヘッドフォン市場において、グレーベージュという珍しい色を展開しているのもユニークだ。MDR-1000Xも主流は黒だが、過去にない高い比率でグレーベージュも売れているという。大庭氏は「肌感覚ではありますが」と前置きしたうえで「この価格帯のヘッドフォンとしては女性の比率は高いと思います。今まで届かなかったお客様に届いているのではないでしょうか」とも話してくれた。
一般的に、女性はことデジタル製品に関してはサイフの紐が硬い。ヘッドフォンに払う金額としては、1ケタ少なくてもおかしくない。もちろん筆者も同様だった。そもそもヘッドフォンを買う予定などなかった。しかしたまたま数分使っただけで虜になり、グレーベージュのMDR-1000Xを買ってしまったのだ。もしノイズキャンセリング機能が生み出す静寂を体験しなかったら、それがグレーベージュではなかったら、買っていなかったかもしれない。
スマホの普及がワイヤレスヘッドフォン市場の急成長後押し
ヘッドフォン市場は2~3年前あたりからおよそ年100%を超えて成長を続けている。なかでも1万円以上の高価格帯市場が成長しており、これを牽引しているのが特にBluetoothワイヤレスヘッドホンで、市場のトレンドとなっていると大庭氏は説明する。
トリガーとなっているのはスマートフォンのエンターテイメント利用が普及していることだ。スマートフォンそのものの高画質、高音質化に加え、音楽の定額制ストリーミングサービスが普及し、YouTubeなど無料で楽しめる動画や、映画、ドラマ、ビデオなどの動画系コンテンツの増加、そして通信環境の向上のおかげで、どこでも音楽や映像のコンテンツを楽しめるようになった。今いる場所でコンテンツを存分に楽しむには、イヤホンやヘッドフォンが欠かせない。
「『ライブ映像を見るなら、いい音で聴きたいし、いいヘッドフォンを使いたいよね』などのニーズはありますね。再生機器と再生環境、ネット環境の進化、それからコンテンツの配信方法の進化によって、ヘッドフォン市場が一気に盛り上がっているのでは? と考えています。さらにその波を受けて、オーディオマニア層だけでなく、音質よりもデザインを重視している層やスタイルにこだわる層も、音質に興味を持ち、ヘッドフォンに選択肢があることに気づいたというのも、ヘッドフォン業界の伸びにつながっているのではないかと思っています」(大庭氏)
筆者自身、MDR-1000Xを使ってみて「ワイヤレスヘッドフォンはこんなに動きやすく使いやすいのか」と驚いた一人だ。しかし一般的には「ワイヤレスヘッドフォンは音質が悪い」というイメージが根強い。また、ノイズキャンセリングの知名度はまだまだ低く、知る人ぞ知る存在である。
そんな背景もあって「すべては音楽体験のために」の名の下に、ソニーの中でアクティブヘッドフォンのベストを再定義しよう、というコンセプトが浮上した。目指すのは、最高峰ワイヤレスノイズキャンセリングヘッドフォンによる、静寂と高音質を両立した、今までにない至極のリスニング体験である。