日本の航空市場に「価格」という選択を
東京・羽田空港に向かうモノレールの新整備場駅の一帯には、航空各社の格納庫が立ち並ぶ。4月初旬、航空各社はそれぞれの格納庫で入社式を行った。その1つ、スカイマークの新入社員は125人。全日本空輸(ANA)の約2800人、日本航空(JAL)の約1700人に比べるとケタはひとつ少ない。それでも役員のひとりはしみじみとこうつぶやいた。
「こんな日を迎えることになるとは、2年前には思いもよりませんでしたよ」
スカイマークは、国内第3位の航空会社だ。現在は、26機の小型機により国内9都市をつなぎ1日約130便を運航し、約400人の客室乗務員を含む約2000人の社員が働く。だが、そのスカイマークは2015年1月に経営破綻している。取締役のつぶやきには、2年でここまで復活したことへの感慨が込められていた。
日本の航空市場は、90年代から激動を繰り返してきた。きっかけは規制緩和。その参入第1号が96年のスカイマークだった。その後、エアドゥ、ソラシドエア、スターフライヤーが相次いで参入した。ところが01年のアメリカ同時多発テロ事件で航空需要が低迷。02年にJALと日本エアシステム(JAS)が合併するなど再編の嵐が起きた。先に挙げた3社はいずれも資金難のため現在はANAの傘下にある。
スカイマークは日本の航空市場に「価格競争」を持ち込んだ会社だ。その影響は現在も続いている。たとえば羽田―福岡線で大手2社の普通運賃は4万1390円で横並びなのに対し、スカイマークは2万2190円である。スカイマークの登場で、私たちははじめて「国内線を価格で選ぶ」という選択肢を手に入れた。
しかし15年1月28日、ついに翼が折れた。民事再生法適用のため東京地裁に申し出た負債総額は約710億円だった。直接の原因は、大型機材の購入後に急激な円安が進み、経営陣が予想しない資金難に陥ったことである。そのとき再建に名乗りを挙げたのが、現会長の佐山展生が率いる投資ファンドのインテグラルだ。
紆余曲折を経て、180億円の資本金は、インテグラルが50.1%、ANAが16.5%、残りを日本政策投資銀行と三井住友銀行が共同出資するファンドで折半することになった。
佐山が会長、日本政策投資銀行常務の市江正彦が社長という新経営陣による再建が始まったのは15年9月29日。現在、その翼は再生しつつある。15年度決算は売上高721億円で15億円の営業黒字。前期は170億円の営業赤字だった。
16年度決算はまだ発表されていないが、取材によると売上高750億円、営業利益60億円超と見込まれる。経営陣にとっても、予想以上のV字回復だという。