破綻から2年。「空の反逆児」と呼ばれたスカイマークが再生しつつある。新経営陣は金融出身のツートップ。会長はファンドの代表だ。しかし彼らは「カネ」より「ハート」の経営に挑むという。たとえば旧経営陣は客室乗務員に「サービスはするな」と指示していたが、新経営陣はコーヒーサービスを再開し、制服も刷新した。目標は「日本一愛される航空会社」――。経済ノンフィクション「企業の活路 スカイマーク」。前後編のうち後編をお届けする。

「社員が動かなければ会社は動かない」

スカイマーク会長の佐山展生が率いるインテグラルは、企業の再成長や再生などを手がけるファンドだ。これまでにイトキンやアデランスなどの企業再生を手がけている。スカイマークへの投資を判断するにあたっては、小型機を効率的に稼働させるというスカイマークのビジネスモデルには十分に可能性があると見込んだ。しかし、複数のファンドがスカイマークへの投資を検討し、あきらめていた。

スカイマーク会長 佐山展生氏

「自信があったわけではありません。ただし、誰でもやれるようなことに手を出しても意味がない。我々は、ほかがやらないような難しい案件をとりにいきます。会社を立て直すということは、社員が働きやすい会社にするということ。そこに我々が参画する価値がある」

佐山はそう言った。投資先企業を社員が生き生きと働くような会社に生まれ変わらせる。そうすれば、自ずと結果(リターン)はついてくる。それが佐山の考え方なのだが、このような企業再生を手がけるファンドがあること自体、まだ一般には知られていない。

「ファンド=ハゲタカ」というイメージを払拭するのは大変だったのではないか――。そんな編集者の問いに佐山はこう応じた。

「我々は経営陣の責任は厳しく問います。『ハートのある経営』が大事だと常々申し上げているのは、社員のみなさんにハートを向けなければいけないという意味です。社員が動かなければ会社は動きません。スカイマークでは、我々は経営者でもあります。ハートのある経営ができているか。社員のみなさんから問われる立場でもあるんです」

佐山の経歴は異色である。京都大学工学部高分子化学科を卒業後、帝人で技術者として研究・開発に携わったのち、33歳で三井銀行(当時)が立ち上げたばかりのM&Aの部署に転職。ニューヨーク赴任を経て、90年代に当時の日本で最大のM&A案件を手がける。その後、投資ファンドの設立などを経て、2007年、パートナーとともにインテグラルを立ち上げた。

スカイマークの現場を回ったとき、佐山は帝人の工場を思い出したという。

「工場には純粋でいい人が多い。そうでないと、ものはつくれないからです。口先でものはつくれません。きっちりと整備をして、きっちりと設計をして、きっちりと原材料を精査しないといいものはできない。真面目にきっちりやらないと成り立たない仕事。それは飛行機を安全に飛ばすスカイマークの現場も同じなんですよ」