ANAから来た上司にどう向き合えばいいか
現場に風が吹き始める。まず変化したのは整備部門だった。
整備部門の抱える課題のひとつに「当局とのリレーション」があった。経営破綻と同じ月の15年1月、スカイマークは国土交通省航空局による認定事業更新検査で、54カ所の指摘を受けている。同月20日には、必要な整備確認作業を実施しないまま機体を出発させたことから航空局より「厳重注意」を受けた。技術部長だった高木敬介(現・空港管理部長)が振り返った。
「経営難に陥った会社の先行きを見限った優秀な社員たちが、ANAや航空機メーカーなど同業他社へ転籍してしまうことが続いていました。いい人材がいない。そのうえ、我々は航空局との人間関係もありませんでした」
前経営陣は「因習打破」の方針を掲げ、現場に、航空業を管轄する航空局との接触を必要最低限にする指示を出していたという。それは、スカイマークを訪ねてきた航空局職員をビル1階の受付へ迎え出ることさえ禁じる仔細さだった。前経営陣が方針に込めた思いは決定権を持つ官僚に過剰におもねらないということだったのだろう。だが、その方針は行きすぎ、情報が入りにくいという支障を来していた。
そこへANAから管理職が出向してきたとき、現場はざわついた。
そもそもANAから出資を受ける際、ANAはチケット予約システムの統合を提案したが、筆頭株主であるインテグラルが「独立性の維持」を主張して拒んでいる。ANAの影響力が増すことに対して、現場にも抵抗感はあった。しかし、実際に一緒に仕事を始めると予想外のことが起きた。高木が言う。
「ANAの方の経験と知見に驚かされました。それだけでなく、航空局に説明に行く際にも、同行して我々の立場に立って説明をしてくれるんです。航空局との信頼関係があるため、話が早いのもありがたいことでした」
国交省との交渉窓口である品質保証部では、脆弱な体制や社内規定にある資格をすべて見直す必要に迫られた。部次長の河内辰弥(45)がそのときにアドバイスを受けたのも、ANAから出向してきた部長だった。河内は、ANAの蓄積してきた知識と経験に触れ、率直に「かなりの差がある」と感じたという。そのうえで、こう話した。
「我々が独立系でいるためには、早くANAのサポートなしでやっていけるようにならないといけない。人材育成の研修の仕組みづくりが急務です」
取材では、すべての社員が「会社は変わった」と言った。「どう変わりましたか」と尋ねると、ある客室乗務員は「現場のアイデアを取り入れてもらえる。しかも、すぐに」と答えた。前経営陣の強力なトップダウンが生んでいたさまざまな綻びが、修正に向かっていることを社員が実感し始めていた。
安全性に関する取り組みの成果は、17年3月の認定事業更新検査で注意項目ゼロという結果に表れた。