発売当初から「大人向け」を訴求

実は、昔のアイスと現在のアイスでは消費者層が違う。アイスクリームプレス社の二村英彰社長はこう説明する。

「昔のアイスは、『子供のおやつ』で、お母さんが小売店で子供向けに買ったり、子供がお小遣いをにぎりしめて1本買ったりするという商品でした。それが各メーカーの販売戦略の成功もあり、現在のアイスは『大人向けスイーツ』に変わったのです」

発売当時の「パルム」。当時は「エスキモー」ブランドだった

パルムの主要顧客層は「40代から60代の女性が全体の4割を占める」(宇田川氏)ということで、これも二村氏の話を裏付ける。1本売りの個別タイプは20代、30代の独身女性に、「マルチパック」と呼ばれる箱売りは主婦層に支持されているという。興味深いのは、パルムは05年の発売当初から「大人」に訴求していたこと。なぜ、大人にターゲットを絞ったのだろうか?

「当時すでに少子高齢化が社会問題となっており、今後の国内市場を考えた場合、社内では『アイスクリームも子供向けではむずかしい』と危機感を持っていました。価格や量よりも質を重視する大人が満足するアイスを提供したい、思いもありました」(宇田川氏)

こうして発売されたパルムだが、当初は苦戦した。箱売りでは競合品が1箱約300円のところ、パルムは約350円。この価格差が流通との商談の壁となり、なかなかアイス売場に置いてもらえなかった。そこで注力したのが「試食体験」だ。商品を置いてもらえた売場で積極的に試食販売を行い、来店客に実感してもらった。そこで売上成績が上がると、その資料を持って別の店に訴求する――といった地道な活動で顧客を広げたのだ。

ピノで培われた基盤技術

消費者へのコミュニケーション手法も変えた。当初、CMキャラクターは外国人男性を起用していたが、2008年4月から俳優の寺尾聰さんに変えた。演技派俳優として知られ、中高年には大ヒット曲『ルビーの指環』の歌手として馴染みのある寺尾さんが、おいしそうにアイスをほおばる姿が印象的だった。なお、現在は俳優の竹内結子さんが務めている。

もう1つ。あまり知られていない側面も紹介したい。歴史と伝統があるメーカーには、基盤技術(キーテクノロジー)がある。森永乳業のアイスでは、チョココーティング技術がそれだ。前述した一口サイズのアイス「ピノ」はパルムの大先輩の40年ブランドだが、同じようなチョコがけアイスだ。パルムならではのチョココーティングは完成まで1年かかったというが、その根底には「ピノ」で培われた基盤技術があった。