リアル店舗が「高額商品」で優位な理由

現在でも、百貨店は坪当たりの売り上げにおいて優れている。それでは、なぜ「脱百貨店」が模索されるのか。

ひとつの理由は、百貨店がコストを投じて売り上げを追求する業態となっていることにある。百貨店の強みは、出店するショップやブランドの初期コストが低いことだった。これは成長期の市場にあって、資金繰りに課題をかかえる新興ブランドを取りこむのに適していた。しかし一方で、百貨店は設備や資材や人材など、内部に大きなリソースを抱える必要があり、これは、今の日本のような成長の余地に乏しい市場環境においては、無視できないリスク要因となる。

もうひとつの理由は、「デジタル・ディスラプション(digital disruption:デジタル化による破壊的イノベーション)」への備えだろう。スマートフォンの普及を背景に、ネット通販などのECサイトは急拡大している。リアルの店舗がブランド横断的な商品集積をはかっても、顧客に提供できる購買の利便性、品揃えの柔軟性や幅、そして商品仕入れにおける交渉力などにおいて、これからECサイトに対抗するのは難しくなる。

リアルの店舗に残された優位性は、高額商品の販売におけるエクスペリエンス(体験)の提供だろう。店舗であれば、商品のセレクションやブランドの背後にある世界観を、アル空間の特性をいかして表現することができる。

この空間の提供という路線を追求していく場合、仕入れ方式で個々の商品をコントロールすることよりも、ショップやブランドのトータルな企画力や運営力を評価して、テナントとして契約することの重要性が増す。

小売のフォーマットは、時代の変化のなかでシフトしていく。GINZA SIXでは、さらにこのシフトをとらえるべく、施設中央の巨大な吹き抜け空間やアート展などを催す上客向けのラウンジ、東京・渋谷から移設した地下3階の観世能楽堂など、体験型の仕掛けを各所に用意している。

銀座は日本一の商業地である。そこで、GINZA SIXは最大規模の商業施設となる。デジタル・ディスラプションのなかで、商業施設の未来とはいかなるものになるのか。GINZA SIXは、そのひとつの重要な試金石となりそうだ。

栗木 契(くりき・けい)
1966年、米・フィラデルフィア生まれ。97年神戸大学大学院経営学研究科博士課程修了。博士(商学)。2012年より神戸大学大学院経営学研究科教授。専門はマーケティング戦略。著書に『明日は、ビジョンで拓かれる』『マーケティング・リフレーミング』(ともに共編著)、『マーケティング・コンセプトを問い直す』などがある。
【関連記事】
“爆買い”バブル崩壊、百貨店業界「苦肉の策」
閉店相次ぐ「駅前の百貨店」なぜ今まで潰れなかったのか
三越伊勢丹の「改革」が失敗した本当の理由
そごう・西武「3店売却」、次なる百貨店再編の台風の目は?
伊勢丹新宿本店「日本一の百貨店」の価格戦略ストーリー