日本社会を「雇用不安」の重たい雲が覆っている。就活をひかえた学生やその親御さんたちの目には、荒涼とした労働市場が映っていることだろう。彼らにこそ、この本を読んでほしい、と言う。

<strong>海老原嗣生</strong>●えびはら・つぐお 1964年生まれ。メーカーを経て、リクルートエイブリック(現リクルートエージェント)入社。2008年、HRコンサル会社ニッチモ設立。「HRmics」編集長。著書に『雇用の常識「本当に見えるウソ」』(プレジデント社)。本人をモデルにしたドラマ『エンゼルバンク』(テレビ朝日系)放映中。
海老原嗣生●えびはら・つぐお 1964年生まれ。メーカーを経て、リクルートエイブリック(現リクルートエージェント)入社。2008年、HRコンサル会社ニッチモ設立。「HRmics」編集長。著書に『雇用の常識「本当に見えるウソ」』(プレジデント社)。本人をモデルにしたドラマ『エンゼルバンク』(テレビ朝日系)放映中。

伝えたかったのは、「チャンスは2度ある」ということ。

「就職氷河期といっても新卒求人倍率は1.62倍、1000人以下の企業に限ると3倍を超えています。“好きな仕事”や“有名な会社”にこだわらず、まずは雰囲気の合う会社に“就社”する。それで上手くいかなかったら、20代後半までに転職すればいい。ちょっと景気がよくなれば、20代は、相当な売り手市場になりますから」

あるときはコンサルタント、あるときはマーケッターとして、企業の採用にかかわってきた。繊細にして大胆な仕事ぶりは、人気漫画『エンゼルバンク』(三田紀房・講談社)のモデルにもなっている。実際に会うと、クールな漫画の登場人物「海老沢康生」からはちょっとイメージしにくいほど、熱い。昨年、雇用・キャリアをテーマとした2冊の本を上梓したのは、世間の「通説」と現実に起きていることがあまりにもずれていることに黙っていられなくなったからだ。

「雇用を語るうえで、人口の大変動が社会に及ぼす影響を軽視しすぎている。若い人の就職口が減ったように見えるのは、生産人口が減っているのに学生人口が増えたから。大学は学生数を確保するために試験科目を減らして偏差値アップをはかったり、無試験で入学させたりと、さまざまな手を打ってきた。偏差値を鵜呑みにする企業が大学名だけで採用して、いまどきの学生は質が低いと言う。学生は学生で、せっかく大学を出たのだからそれなりの企業へ……と、えり好みする。そうやってウソが上塗りされていくんです」

『学歴の耐えられない軽さ』 海老原嗣生著 朝日新聞出版 本体価格1200円+税

大学、企業、学生をまきこんだ三つ巴の「騙し合い」が若者の労働市場を歪めていると指摘する。昨今の「ワーキングプア」をめぐる論調にも不満がある。

「貧困率が高くなっているのは非正規労働者が増えたからだとまことしやかに言われていますが、貧困層のなかで非正規労働者って、7%だけですよ。残り93%を見ないでそこばかり強調するから、悪いのはすべて人を使い捨てにする企業だという話になる。企業にもそれなりの責任はありますが、大きな流れを見ない本質から外れた議論が多すぎるんですよ」

企業性悪論、世代闘争論からは、目の前にある問題の解決策は生まれない。

(澁谷高晴=撮影)