主人公の星野は、住宅メーカーの営業部に所属する36歳。ノルマに追い立てられながら、ファミレスや漫画喫茶でさぼってばかりの毎日。ある日、時間つぶしのつもりで訪れた平日の公園で、彼はひとりの老紳士に出会う。その老紳士は、一代で大会社をつくり上げて引退したビジネス界の大人物・大蔵会長だった。
ふとしたことがきっかけで親しくなった2人は、毎週火曜日に同じベンチで会う約束をし、個人授業を始めることに――。
著者の谷口貴彦さんは、「世界ナンバー2コーチ」を自称するコーチングのエキスパート。あるコーチ養成機関で出会った老人が、大蔵会長のモデルとなる人物だという。
「70歳を過ぎても夢をたくさん持っていて、25歳も年下の私と同じ目線で話をされる方でしたね。メンターとの出会いはとても大きなものでした」
星野も同じように、大蔵会長との出会いでその後の人生を変えていくことになる。
大蔵会長がまず最初に出した宿題は、5つの言葉、「目標」「目的」「夢」「ゴール」「ビジョン」の意味を調べてくること。
「目標達成のお手伝いをするのがコーチングですが、目標とは何なのか、ということに興味を持ち始めて、辞書で調べてみたことがあるんです。それまで漠然と使っていて、それぞれの違いなんて意識していませんでしたが、言葉の意味を知ることで気づくことがたくさんありました」
「目的」は「成し遂げようと目指す事柄」であり、「目標」は「目的を達成するために設けた目当て」にすぎない。だが、目の前の「目標」に振り回され、本来の「目的」を見失っている人は多い。ノルマに汲々とし、何のために働いているのかわからなくなっている営業マンの星野は、まさにその典型だ。
「目標はただのツールでしかありません。ある化粧品メーカーは、売り上げノルマという目標を撤廃し、“お客様に喜んでもらう”という目的だけを考えてお客様目線に徹したら、逆に売り上げが上がりました」
「目的」と「目標」の違いを理解するだけでも、そんなふうに効果は表れるのだ。
言葉の意味を明確にすることは、コミュニケーションにおいても大切。コーチングの基本もそこにある。
「誰もが無意識のうちに自分の言葉を使いすぎているんですね。意味の捉え方が違っていれば、いずれ食い違いが生じる。仕事も人間関係も、言葉の使い方次第で180度変えることができるんです」