日本の農業を壟断した利権ありきの腐敗構造

広大な土地を使って機械化された農業を、少人数で営む海外の農場風景。(Bloomberg/Getty Images、PANA=写真)

広大な土地を使って機械化された農業を、少人数で営む海外の農場風景。(Bloomberg/Getty Images、PANA=写真)

過去、ウルグアイ・ラウンドなどWTO(世界貿易機関)の交渉で日本は頑なに自由化を拒み、適当な理由を捻り出しては例外措置にしがみついてきた。たとえば、牛肉は1991年に輸入が自由化されたが、口蹄疫やBSE問題などで厳しい制限を設けて現在は3835%の関税率になっている。もっとひどいのが食管法や食糧安保などを言い訳にしてきた「コメ」で、いまだに778%の関税率で守られている。

もしTPPに参加すれば、これらがすべてゼロになると覚悟しなければならない。海外の安価な農作物が流通すれば、競争力のない国内農業は厳しい状況に追い込まれる。民主党がマニフェストに謳った農家の戸別所得補償制度はバラマキとの批判もあるが、TPPを念頭に置いた農業支援策と解釈すればそれなりに整合する。

菅首相が法体系を見直してでも若者を送り込もうという農業の未来とは、いつまでしてもらえるかわからない所得補償に頼らなければ食いつなげない世界なのだ。前途はあるが経験のない若者が飛び込むのだから、彼らが生き残る術を身につけるまでTPP参加を10年見送るというのなら話はわかる。しかし農業を強化するビジョンも方策もない現状のままでは、武器も持たせず戦場に送り込むに等しい。

日本の農業従事者の平均年齢は65.8歳。米作農家に限ればもっと深刻で70歳近いはず。これについて菅首相は「わが国の農業は貿易自由化とは関係なく、このままでは立ちゆかなくなる」と懸念を示している。しかし、担い手が若返れば廃れなくなるという次元の問題ではない。

自民党政権の最後の20年間、ウルグアイ・ラウンド対策として42兆円を投じて農業基盤整備事業を行ってきた。それだけ使っても日本の農業の生産性は一向に上がらず、国際競争力も改善されなかったのである。

それどころか、この20年で農業従事者の数は約900万人から560万人に激減した。一方、耕作放棄地は約15万ヘクタールから40万ヘクタールに拡大して、「土地持ち非農家」の割合が増えてきている。

この流れを助長しているのが農業従事者に対する「税制の優遇措置」。たとえば農地に関しては、農業従事者に相続税はかからない。相続者が30年間農業に従事すれば、相続税が免除されるのだ。また農業従事者は青色申告者と同様、一般事業者よりはるかに多くのものを経費に算入できる。海外旅行も農業視察と見繕えば、経費で落とせるのだ。

私に言わせれば、まじめに農業に向き合ってもいないのに、農業利権だけは手放したくないという「農民もどき」が多すぎる。

農業従事者の8割は兼業農家である。2割の専業農家がネット直販など新しい農業のスタイルを懸命に模索しているのに対して、兼業農家の多くはJA(農協)におんぶに抱っこ。JAに行けば肥料も農薬も手に入るし、生産物を持ち込めば平均的な値段で買ってくれる。