「早朝出勤の残業代は支払わない」

残業規制が厳しくなれば、会社に早出して仕事をしようとする社員も増えるだろう。今でも9時の始業時間前の8時ごろに出社し、昨日の残りの仕事をこなしている人も多いだろう。それでも、自分が勝手に早く来て仕事をしているのだから残業代を申請できないと勘違いしている人は多いのではないか。

夜の残業だろうが、早出の残業だろうが、法定労働時間の1日8時間を1分でも超えれば使用者は残業代を支払わなくてはならない。だが、実際は残業代の死角になっている。

もちろん支払っている会社もあるが「始業前のオフィシャルな会議が8時から始まる場合は残業代をつけるが、それ以外はほとんどつけていない」(アパレル会社の人事担当者)のが多くの実態だろう。

また、流通業の人事部長は早出残業をつけるかつけないかの基準についてこう語る。

「早出するケースには、(1)出勤時間前に設定された公式の会議、(2)職場のミーティング、(3)上司に示唆されて早く出て仕事をする、の主に3つがある。たとえば、(1)のように経営会議があるために早く出社して打ち合わせをする場合は他の部署の社員も参加するので上司は間違いなく残業をつける。でも、(2)の職場ミーティングはグレーゾーンだ。上司によって残業をつける人もいれば、つけない人もいる。(3)は上司から『たまには早く来いよ』と言われてくる社員だが、早くきてもほとんどの上司が残業代をつけないのが普通になっている」

あやふやな基準は問題だが、もっと問題なのは、仕事を片付けるために自主的に早出している社員の扱いだ。本来は残業なので部下自ら申告する必要があるが、ある人事部長はこう指摘する。

「社員のほとんどが残業代を申請しないし、記録もしていないだろう。実態として残業は発生していない」

これは労働基準監督署への相談でも同じだ。都内の労基署の関係者はこう告白する。

「終業後の残業代未払いの相談者は少なくないが、早出残業の相談者はその10分の1以下だ。夜の残業代未払いの相談者は朝も早出している人がほとんどだが、朝も残業代がつくことを知らない人が多い。経営者も早く出てくる社員に『立派だな』と褒めても、残業代を払おうとしない。労基署としては労働者からの訴えがなければ動きようもない」