ブランド作りにおいてはやせ我慢も必要

果たして、三菱自動車が半ば放置しているような車はもはや見込みがないのか。2006年にフルモデルチェンジされて以降、11年にわたって全面改良がないまま放置されている大型SUV「パジェロ」で500kmほどドライブしてみた。

実際に運転してみたところ、先進安全システムを欠いていること、装備類が古いことなど、放ったらかしになっていたがゆえのネガティブさは随所にあるが、肝心の走り味については依然として「これぞ三菱のSUV」という魅力にあふれたものだった。

全面改良がないまま放置されている大型SUV「パジェロ」

オフロードモデルでありながら、重量級の巨体を生かした高速道路や郊外路のパワークルーズは爽快。また、路面摩擦の小さいスタッドレスタイヤが装着されていたにもかかわらず、4輪駆動にすれば西伊豆の山岳路でも驚くほど軽快に走ることができた。それでいて燃費も良好で、最高出力190馬力のパワフルなターボディーゼルで2.3トン超のボディを走らせるという条件の悪さを押して、市街地と郊外、高速をあわせて軽油1リットルあたり約12kmも走る。

三菱自動車が自分のブランドアイデンティティを生かして再起するうえで大事なのは、こういう三菱ならではの車づくりに惹きつけられてきた顧客のニーズをもう一度掘り起こすことだろう。パジェロは欧州市場で年間5000台程度、日本では年間1000台強が売れているにすぎず、三菱自動車にとってはやめたいモデルの最右翼であろう。が、「あの○○を作っている三菱の」といった枕詞になり得るモデルは、もはやパジェロしか残っていない。ブランド作りにおいてはやせ我慢も必要だ。

グローバルで見れば、悲観的になりすぎる必要はない。日本においてはブランドイメージに致命的な打撃を被ったが、欧州ではそもそも燃費計測の不正がなかったこともあって、大きな影響は受けていない。アジアビジネスも堅調だ。今は日本でのダメージの大きさに萎縮して、打つべき手を打てなくなることのほうを警戒すべきだろう。

99年にルノーが経営危機に陥っていた日産を傘下に収めたときは、世界中から“弱者連合”と評された。そのルノー・日産アライアンスを、販売台数で世界トップ5の一角を占める勢力に育ててきたゴーン氏だが、2016年度までに世界シェア8%、利益率8%の達成を目指すというプラン「日産パワー88(エイティエイト)」が未達に終わる公算が大となるなど、成長路線に翳りが出てきている。昨年の三菱自動車の買収は、ゴーン氏がビジネスマンとしてのキャリアの総仕上げとして打った勝負手のようなものだ。

安全運転に徹する日本企業はこういった火中の栗を拾うような投資に二の足を踏む風潮が強いが、台湾の鴻海精密工業が満身創痍のシャープを買収し、早くも東証一部再上場を視野に入れた計画を発表するところまで回復させたのを見てもわかるように、世界ではこういう“再生ビジネス”に貪欲な企業は数多い。ゴーン氏の三菱自動車買収も、ブランドや技術力に利用価値ありと踏んでの賭けによるものだ。その期待に応えることができるかどうか、ボールはすでに三菱自動車に投げ返されているのかもしれない。

(三菱自動車=写真提供)
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