《周辺的問題点》に惑わされず《核心的問題点》を衝くには?
相変わらず混迷が続く築地市場の豊洲移転問題。こういった複雑な問題を全体解決するためには、解決に導く《核心的問題点》は何かを見極めることが肝要なんだよね。メディアや国会の論戦では、とにかく分かりやすい、目に付きやすい問題点に注目が集まりがち。でも、こうした目に付きやすい問題は、往々にして解決を導かない《周辺的問題点》であることが多い。周辺的問題点であれば、それに関していくら騒いでも何の解決にも至らない。
解決を導く核心的問題点というのは、全体解決から逆算して論理的に考えなければ把握できない。そういや毛沢東も、『矛盾論』で主要矛盾と従属矛盾という概念を説いていたっけね。概念自体はどうってことない。自称インテリはこの概念自体を小難しくあーでもないこーでもないと論じるけど、一番重要なことは何が主要矛盾で何が従属矛盾なのかの把握。それが一番難しい。核心的問題点と周辺的問題点というのもそれと同じ。概念自体よりも、何が核心的問題点かを把握する力が最も重要であり、最も難しいんだ。そしてそれこそが問題解決能力の柱だね。
豊洲問題では、3月3日の小池百合子東京都知事の定例記者会見が核心的問題点を明らかにする最大のチャンスだった。最近やっと築地市場の危険性が取り上げられるようになってきて、たとえば朝日新聞は3月1日付紙面で「築地も土壌汚染の恐れ 市場の敷地 都、昨春に報告書」と報じた。
そしたら小池さんは、次のように答えた。「(築地の土壌は)コンクリートやアスファルトで覆われており、土壌汚染対策法などの法令上の問題もない」、そして「人の健康に影響を与えることはないと考えている」(朝日新聞)とね。そしてそこに「(築地の問題は)豊洲市場の問題と同じ観点で見るべきではない」とも付け加えた。
この点、朝日新聞も最近は冷静な報道をするようになってきた。豊洲に求められている安全の中身についてきちんと報じている。たとえば「環境基準」の意味などについて。環境基準とはその土に触れて70年住む人(土壌基準)、その建物内に70年住む人(大気基準)、その水を70年毎日2リットル飲む人(水質基準)を想定して、そのような人10万人のうちがん発生が1人出るような境目。今、豊洲の地下水で話題になっているベンゼンの環境基準79倍とは10万人のうち79人ががんになるというもの。でもそれは、「その水を毎日2リットル、70年間飲み続けた場合」だけど。
このように環境基準の中身を知れば、土壌汚染対策法が土壌汚染対策の原則として「汚染土の上をきれいな土で覆土する、ないしはコンクリートやアスファルトで覆土する」としていることが理解できるよね。土に直接触れないようにすればそもそも土壌の環境基準は問題にならない。土に70年間直接触れても大丈夫な基準が土壌の環境基準なんだから、土に直接触れないようにすれば土壌の環境基準は関係なくなる。だから土壌の環境基準は周辺的問題点。
さらに地下水の環境基準も、地下水を飲んだり、使ったりする場合の環境基準。飲んだり、使ったりしなければ、そもそも地下水の環境基準は関係ない。これも周辺的問題点。
こう考えると、市場においての重要な環境基準は「市場内の大気基準」であることが分かるよね。そりゃそうだ。実際に市場活動が行われる場所の環境基準こそが最も重要。つまりここが核心的問題点なんだよ。この核心的問題点を見抜く力こそが問題解決能力。
すなわち「土壌汚染があってもその土の上をきれいな土で覆土すれば、またコンクリートやアスファルトで覆土すれば問題はない。地下水は飲むわけではないので環境基準をオーバーしても問題はない」ということ。
このようなロジックで小池さんは「築地は問題ない。安全だ」と言い放った。わざわざ「豊洲市場の問題と同じ観点で見るべきではない」と付け加えてね。
そしたら、なんでーーーーーっ!! ってなるのが普通でしょ。ここで都庁記者クラブは小池さんに超剛速球をぶつけなければならなかった。
「コンクリートで土壌が覆われて地下水を利用しないのは豊洲も同じ。築地がその理由で安全だということは豊洲も安全なんですよね?」とね。
たったこの一言の確認で流れが変わったのに。
さらにダメ押しで、「土壌汚染の安全性を検討する専門家会議を小池都政は絶対視していますが、その専門家会議の平田健正座長が豊洲は科学的には安全だと言っています。当然小池さんは平田座長の見解を採用しますよね?」と。もし都庁記者クラブがこのような質問をぶつければ、豊洲の安全性は完全に確定したんだよね。
※本稿は、公式メールマガジン《橋下徹の「問題解決の授業」》vol.45(3月7日配信)からの引用です。全文はメールマガジンで!!