2009年4月16日、中国でユニクロ製品のネット通販開始を発表し、握手するファーストリテイリングの柳井正会長兼社長(中央右)とアリババグループの馬雲CEO(同左)ら(中国・上海)。(写真=時事通信フォト)
データファイル▼柳井 正
ファーストリテイリング会長兼社長
【名言】変革しろ、さもなくば、死だ(2011年の会社方針より)
【総資産】1兆4600億円(146億ドル)*
【年齢】68歳(1949年生まれ)
【出身地】山口県宇部市
【父親】父・等はファストリの前身「メンズショップ小郡商事」の創業者
【学歴】早稲田大学 政治経済学部卒業
【起業まで】大学卒業後、大手スーパー「ジャスコ」に入社するが、約9カ月で退職し、父の会社に入社。35歳のときに社長就任。
【結婚・家族】ジャスコ退職後に結婚。妻・照代との間に息子2人
【尊敬する人物】松下幸之助、ピーター・ドラッカー。「松下幸之助さんは『衆知を集める』という言葉を大事にされていた。社員の知恵を集めれば怖いものはない。それが一番よい経営の方法なのだ、という教え」
【愛読書】『プロフェッショナルマネジャー』(ハロルド・ジェニーン他)、『ユダヤの商法』(藤田田)、『成功はゴミ箱の中に』(レイ・クロック)
* Forbes The World's Billionaires 2016による。1米ドル=100円で換算。

「安定志向」を憎み「革新と挑戦」を愛する

――成長ではなく、膨張だった(2016年度上期の減益決算について。ファーストリテイリング「トップメッセージ」)

16年5月11日、ファーストリテイリングは社長・柳井正のメッセージをサイト上で公開した。この中でユニクロの営業不振を率直に認めている。

「高い成長の陰で慢心し、ローコスト経営を怠り、商品にお客様が求めている新しさ・革新性が少なかったことなど、さまざまな反省点がありました。しかし、この業績悪化の中でこそ新しいビジネスチャンスの芽が見えてきました。我々はもう一度、ユニクロのファッションリーダーシップ、プライスリーダーシップを取り戻したいと思っています」

過去への反省と今後への意欲。内容はシンプルだが、ここには柳井正という経営者を知る手がかりがある。続けて次の文章を読んでほしい。

――減収減益決算になってぼくは逆にホッとした。(中略)成長というよりも膨張であり、何か異常性さえ感じていた(『成功は一日で捨て去れ』)

これはフリースブームの終焉で大幅な「減収減益」となった2002年8月期決算について、自著『成功は1日で捨て去れ』で振り返ったときの言葉だ。ブーム時はいつでも簡単に売れると錯覚してしまった。ようやく正常な商売ができる――。柳井はそう述懐している。

02年と16年の言葉は驚くほど似ている。柳井はつねに慢心を諫め、成長を目指しつづけてきた。だからだろうか。柳井は、仕事や金儲けが楽しくて仕方がないという態度をみせない。柳井を仕事へと駆り立てているのは「正常な危機感」である。