成功理由その3:技術の価値を変える「クリエイティブ人脈」

そして第三の人脈が、技術の価値を変える「クリエイティブ人脈」です。本多プラスが純粋な下請け企業状態だった頃、営業マンが訪ねて行くのは顧客企業の購買部だけでした。購買担当の仕事は、いい材料をどれだけ安く仕入れるか。逆に言えば、本多プラスの営業の仕事は、1個何円、何十銭でも「価格を下げられないよう」に交渉することになります。

しかし、本多社長はそれまで築いた人とのかかわりから、自社の強い技術に新しいデザインを組み入れることで付加価値が付くのではないかと考えます。そこで社内にデザイン部をつくり、通常のメーカーの購買部だけではなく商品開発部やマーケティング部といった、いわゆる「川上の部署」へ売り込むようにしたのです。

そのためには、クライアントのデザイナーや開発者、マーケッターに認められるレベルでないと話にならない。そこで本多社長は、プラスチック容器に空気を入れて内側から成形するブロー成形に精通したデザイン集団を作ります。美大やデザイン系の学校を出たデザイナー志望の学生を新卒で採用し、工場に1~2年勤務させて自社技術を理解させてから、デザインオフィスに配置。そして、営業マンと一緒に顧客の商品開発部やマーケティング部に提案に行かせたのです。

高い技術を生かしたデザインを提案し、相手を感心させることができれば、そういう顧客の接し方は、ガラリと変わります。「そんな加工もできるの?」「もっとこういう色表現できない?」「女子学生が持って違和感がない感じにしたい」といった相談をされれば、しめたものです。

商品開発部にいるような人たちはそもそもクリエティブなことが大好き。共通する感性を持ったクリエイター同士が人脈としてつながったことで、本多プラスの技術の価値が飛躍的に高まったのです。

相手の立場に立って考える人は、クリエイティブな成果を生み出しやすい

こうして企画段階から関わった味の素の「携帯用アジパンダ」は日本パッケージデザイン大賞2011で金賞を受賞します。本多プラスの仕事はメディアに取り上げられるようになり、一気にブレイクしました。

単純に生産を請け負うのではなく、本多プラスが企画から関わった、味の素「携帯用アジパンダ」。日本パッケージデザイン大賞2011で金賞を受賞した。

本多社長がこの三つの人脈をつくれた背景には、彼が素質として持っている「プロソーシャル=他者視点」があります。これは経営学で近年注目されている、「相手の立場にたって考える人のほうが、クリエイティブな成果を生み出しやすい」という考え方。事業承継に悩む、若き経営者の方には、ぜひ参考にしていただきたい企業のひとつです。

【本多プラス】本社所在地:愛知県新城市 従業員数:200人 社長:本多孝充(1969年生まれ、英国にてMBA取得後、97年本多プラスに入社。2011年より現職、3代目) 沿革:1946年創業。セロファンの毛筆用サヤなどを製造。その後修正液のボトルなどへ事業を拡大。本多社長の入社後、事業モデルを転換して、取引先が化粧品、医療品メーカーなどへ拡大。2013年にはベトナムに生産拠点を新設。2017年6月期には売上高42億円を見込む。
編集部より:
「発掘!中小企業の星」は、成長を続ける優良企業を取り上げて、その強さの秘密を各界の識者が解説する、雑誌『PRESIDENT』の連載記事です。現在発売中の『PRESIDENT3.20号』では、広島県福山市の企業「カイハラ」を紹介しています。
PRESIDENTは全国の書店、コンビニなどで購入できます。また、プレジデントオンラインでは本連載で紹介する、注目の中小企業を募集しています。詳しくは本記事の1ページ目をご覧ください。
(構成、撮影=嶺竜一)
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