もちろん最年少! 脳科学者・茂木健一郎の勉強会の常連

もっとも、芭旺くんの学びは本の中だけにはとどまっていない。感銘を受けた本があれば、著者の話が直接聞ける勉強会やイベントを自ら探して申し込み、1人で参加している。脳科学者・茂木健一郎氏の勉強会は、今や常連メンバー。驚くべき行動力である。

「常識で考えると、大人の勉強会に子供がひとりで行くなんてありえないですよね。でも、私は『まだ早いから、やめておきなさい』とは言ったことはありません。子供って本来、行動力の塊だと思うんです。その力を失ってしまうのは、親がとめてしまうから。うちはとめなかっただけ。子供のために何かをやったのでなく、やらなかったから、自分でどんどん行動するようになりました」

『プレジデントFamily2017春号』より(市来朋久=写真)

好奇心旺盛な芭旺くんからは、「なぜ?」と聞かれることも多い。そのときも、答えを教えることはもとより、一緒に考えることもせずに、「あそこに答えがあるかも」「あの人に聞けばわかるかも」とヒントだけ与えるようにするのが弥生さんの方法だ。

「一緒に考えてしまうと、親の思考や価値観が入り込み、結果、子供の邪魔をすることになってしまう。水飲み場に連れて行くのでなく、水飲み場のありそうな場所を教えることが大事だと思っています」

ゲームに対する考え方も“常識”とは異なる。1日30分までなどと制限をする家庭は多いは、弥生さんは一度も止めたことはないという。やるのもやらないのも、本人の自由だからだ。

「芭旺くんにとって、ゲームは楽しみながら、表現の方法を学べるツール。そのとき体験していることとリンクしているそうで、自宅学習になり、今後、どうやって学んで行くかと考えているときは、『マインクラフト』や『シムシティ』のようなゼロからなにかを構築するゲームに熱中していた。今、ハマっているのは『ポケットモンスター サン・ムーン』。チームの中で個々の能力を活かす、リーダーとしての役割をゲームで学んでいるそうです。この話を聞かされて私もびっくり。『そうだったんですか!』と感心してしまいました」

そんな芭旺くんが文章を書き始めたのは、日本財団と東京大学先端科学技術研究センターによる「異才発掘プロジェクト」への応募を思い立ったのがきっかけだった。

このプロジェクトは、突出した能力を持ちながら学校教育の環境に馴染めずにいる小・中学生を対象にしている。選抜された生徒はスカラーと呼ばれ、継続的な学習の保障と生活のサポートが受けられる。一次審査は書類選考。だが、芭旺くんには書くことがなかった。そこで、フェイスブックやツイッターで自分の考えや行動を発信して、履歴書代わりにしようと考えたのだ。妙案は見事、的中。セミナーやワークショップなどに参加できるホームスカラーに選ばれた。

とはいえ、本の出版に関しては弥生さんにも想定外だった。仕掛け人は芭旺くん自身。お母さんのフェイスブックアカウントを使って、サンマーク出版の編集長、高橋朋宏氏に「僕の経験を本にしたいんですけど、話を聞いてもらえませんか?」とメッセージを送ったのである。

高橋氏はこう振り返る。

「メッセージをもらった数日後に芭旺くんに会いましたが、本になるとは考えていませんでした。でも、その後に送られてきた文章に心を打たれ、本にする価値があると確信したんです」