「言い値」販売を実現した「製造履歴管理システム」
同社は1970年代に中小企業にもコンピュータが必須になるといち早く気づき、多くのコンピュータ会社に「言い値」販売を実現するシステムづくりについて相談した。しかし当時の日本は省力化と合理化の発想が主流で、担当するSE(システムエンジニア)は経営にうとく頓挫していた。
そんな時に大手コンピュータ会社から独立してITベンダーを立ち上げた人から、大阪にある酒屋のシステムを見せてもらう機会を得る。このシステムは顧客リストが縦列に配列され、横列には今日売る商品が書き込まれ、この表を基に営業マンが商品を車に積んで取引先を回る仕組みになっていた。40年前の当時に、こうしたシステムを運用していることに衝撃を受け、同社も「製造履歴管理システム」の構築に着手する。
当時の取引先数は約500社でおよそ20人の営業員が分担していた。既存顧客から過去に受注したことがある同じバネのオーダーが入ると、営業員は図面を探して生産現場とやり取りし、価格と納期がいつになるかを回答していたためタイムラグ(時間のずれ)が生じていた。
同社の顧客は、設備や機械の故障や製品の試作など、急いでバネを調達する必要に迫られている特徴があった。顧客から問い合わせが入った段階で速やかに価格と納期が提示できれば、値引きよりも歓迎され、「言い値」で顧客は購入してくれると同社は考えた。
そこで考案した「製造履歴管理システム」は、既存顧客から電話による問い合わせが入ると、顧客情報と受注履歴がモニター画面に表示され、材料の在庫確認と工場の稼動状況を踏まえ、納期と価格が自動計算されて顧客に提示できる仕組みだ。
このシステムはその後、継続的に改善して受注生産の効率化を高め、納期については約束納期遵守率99.97%、クレーム発生率は0.1%を誇るまでに進化した。既存顧客への迅速な対応を実現し、さらに値引き販売を一切行わない企業姿勢を貫いたことで「言い値」販売体制が実現した。