「今の職場では無理だ」とあきらめるのは早い。「仕事とは、本来、世の中を良きものに変えようとする営み。本業そのものに社会に貢献できる喜びがあることに気づいてほしい」と、シンクタンク・ソフィアバンク代表の田坂広志さんは力を込める。

「利益追求型の企業にも、日常の仕事のなかに『お客様の喜ぶ顔が見られた』と感じる瞬間があるはず。自分の仕事がどんな意味を持つのか、それを知ることで『働きがい』を感じることができるのです。週末に外でボランティア活動をするのも悪くありませんが、それを仕事の逃避にしてはいけない。目の前の小さなことでいいから、世の中を良い方向に変えていこうとする。そういう人たちが無数に増えれば、この社会は良くなる。社会貢献ブームは、そんな“職場の片隅から起こす社会変革”であるべきですね」

そこで問われるのが経営者の姿勢だ。たとえばグーグルは大成功したIT企業だが、使い勝手の良いサービスを無料で提供するなど、本業を通じて世の中に貢献しようとしている。それは「経営者の志が違うからだ」と田坂さんは言う。

「企業にとって利益は大切ですが、究極の目的は社会への貢献。それが日本型経営の価値観です。資本主義のあり方が問われる今こそ、古き良き日本の価値観を取り戻すべき。これは静かな闘いですよ。ウォール街が再び活気づき、性懲りもなく同じことを繰り返す前に、企業とは何かを問い直すべきなのです」

個人の生き方もしかり。高度な知識社会の今、他者との関係や信頼、評判が、自分にとって重要な資本となる。「自分だけよければ、自分の給料さえ上げればいい」という考え方は戦略的に間違っているというのだ。

マエキタさんの意見も似通っている。

「ひとりだけいい目を見てもしょうがないと思うんです。自分のことだけ考えず、人のことも考える。私はクリスチャンだけど仏教の教えもほとんど同じ。きっとそれが人間の幸せに近いんでしょうね」

※すべて雑誌掲載当時