Karl Heinrich Marx-カール・H・マルクス(1818~1883)

科学的社会主義の創始者。資本主義の政治経済学的批判をした『資本論』の著者。1847年春、エンゲルスとともに「共産主義者同盟」に加わり、大会からの依頼で『共産党宣言』を著す。ドイツでの革命に参加するためケルンに赴き、「新ライン新聞」を発刊。6月事件のあと、追放令でパリに向かったが、フランスからも追われ、49年8月末ロンドンに移り、死ぬまで亡命生活を続けた。


 

マルクスには2つの魂がある。

1つ目は、革命家としての魂だ。人間が本来の人間として生きることができない疎外された状況を打破するためには革命を起こして、共産主義社会を建設する必要があると考えた。21世紀に生きるわれわれは1917年のロシア革命という実験によって生まれたソ連という名の共産主義国家が、地獄絵を描いたことを知っている。従って、マルクスの革命家としての魂を継承することには躊躇せざるをえない。

2つ目は、資本主義社会を観察する理論家としての魂だ。この魂が結実したのがマルクスの主著『資本論』である。

もっとも『資本論』の中にもマルクスの革命家としての魂が混在している部分がある。例えば、資本主義の発展につれて労働者階級が窮乏し、それに対する反抗から革命が起きるという仮説だ。『資本論』を読むときには、このような革命への過剰な想いから、資本主義分析を誤った部分を排除することが重要だ。日本の傑出したマルクス経済学者である宇野弘蔵の『資本論』読みを踏襲すれば、マルクスの革命家としての魂に惑わされることなく資本主義の内在的論理をつかむことができる。

どのような内在的論理が資本主義システムを成り立たせているのであろうか? マルクスは、本来、商品とすべきではない人間の労働力を商品化することによって資本主義システムが成り立っていると考えた。言い換えるならば、労働力の商品化が担保されていれば、資本主義は恐慌を繰り返しながら、永続するのである。

それでは労働力の商品化を解消することができるのであろうか? 実際に労働力が商品化されていない社会もある。例えば、北朝鮮社会だ。もっとも北朝鮮では、朝鮮労働党と北朝鮮政府の圧力で、国民の大多数が奴隷労働に従事しているような状態だ。これならば、労働力の商品化が解消されていない先進資本主義諸国の方が勤労者にとってずっとましだ。現状で、人類は労働力の商品化を克服して、高度に発達した産業社会を維持する技法を見出していないのである。