問題の隠蔽や先送りは何も解決しない

柴田昌治 スコラ・コンサルト プロセスデザイナー代表

日本では昔から、ビジネスの世界において「調整型人材」が評価される風土が根強くあります。社内調整にそつがないということが優秀だというわけです。関係各所に根回しし、意見や要望を取りまとめ、なるべく波風の立たないように収める。そして、それが組織には一番と思われてきました。

確かに、企業や経済の安定期ならモグラたたきをしているだけで通るかもしれません。しかし、今のような時代にはそうはいきません。私は、必要なときには、荒立ててでも事を顕在化するほうがいいと思っています。というのも、世の中のあらゆる物事は、混乱を乗り越えて初めてより高いレベルに達するからにほかなりません。

例えば、ある食品会社で、営業部門の社員が「納入先の飲食店における消費期限の扱いに問題があるのでは」と気づき、上司の課長に報告したとします。けれども、その課長は「事態が大きくならないうちに自分の課だけで内密に処理してしまおう」と考え、上層部には知らせず、その飲食店への指導だけですませてしまったのです。

ある意味でこれは、管理職が「調整力」を発揮している典型的なケースかもしれません。一見すると、職場は平穏を保ち、納入先もこれまで通りの関係ということになります。ところが、それこそが大きな火種を抱えることにつながるのです。問題の隠蔽や先送りは何の解決にもならない。いつか、同じことが、より大きな規模で起こることは十二分に予測されます。

実際、この会社は後に、より大きな問題を引き起こしてしまいました。法令違反は会社の命取りになりかねません。この課長が消費期限の問題の重要性を認識し、上司に報告、相談し、他の取引先でも同じことが起きていないか調べ、手を打っていれば避けられたのではないでしょうか。