第二に、創業家が大口株主であることも、利点として挙げられます。経営学のエージェンシー理論では、経営者は企業の持ち主である株主の代行と考えます。非同族企業では、経営者は株主の意向を無視してむやみな投資に走る可能性もありますが、大口株主と経営者が同じ創業家から出ている同族企業では、両者が一枚岩になりやすいのです。
もちろん、同族経営にはマイナスもあります。最大の不利益が、資質に劣る経営者が創業家から選ばれてしまう可能性です。しかも「モノ言う株主」である創業家の株主が同族の経営者に甘くなると、これに抑制が働かなくなります。ですが、そのマイナス面を解消する手段があります。それが「婿養子」社長です。
13年に、カナダ・アルバータ大学のヴィカス・メロトラ教授と京都産業大学の沈政郁准教授などが、日本企業の婿養子の効果について詳細な研究を発表しました。日本の上場企業約1300社を統計分析したところ、婿養子が経営者をしている同族企業のほうが、ほかと比べて業績がいいという結果を得たのです。
婿養子の場合、「同族の中から資質に劣る経営者を選ぶ」というマイナスを回避して、企業の内外から優秀な人材が選ぶことができます。江戸時代の藩主は、娘が生まれると息子より喜んだといいます。メロトラ教授たちの研究成果もそれと同じです。
他方で、婿養子として同族と一体となるわけですから、創業家の株主と同じ目線のブレない経営も可能になる。実際に、日本でも多くの婿養子社長がいます。スズキの鈴木修氏、アシックスの尾山基氏、松井証券の松井道夫氏などが成功しています。
前近代的ではありますが、「婿養子」は最先端の経営学から見ると、「最高のパターン」ともいえるのです。
(伊藤達也=構成 奥谷 仁、的野弘路=撮影)