「あなたたちをずっと見ていた」
「本当をいえば、断られてもまったく落ち込まなかったといえば嘘になります。だけど、そこは意志をもって楽観する。『そうはいっても、この人は学校の理念自体を否定しているわけではないもの』って。すると不思議なもので、断られたのに、なんだかすごく有意義なミーティングだったみたいな雰囲気で終われる」
彼女はそれを楽観力と呼ぶ。「悲観主義は気分に属し、楽観主義は意志のものだ」という、フランスの哲学者アランの言葉は彼女の座右の銘だ。
「目の前に立ちはだかる困難や意見の相違は、そのときは悲観材料かもしれない。けれど、逆にいえば、それを取り除きさえすれば、もしかしたらこの人もサポーターになってくれるかもしれない、いつかは協力をしてくれるかもしれないという、楽観できる未来に結びつける方法でもあるわけですよね。どちらと考えるかは、自分の意志次第だと思うんです」
断られ続けても彼女が挫けなかったのは、その楽観力のゆえだ。楽観できたからこそ、彼女はそういう場合になすべき重要なことを忘れなかった。
「忙しい相手が30分、40分と時間を割いて自分の話を聞いてくれたことに対して、まずきちんとお礼の気持ちを伝えなければいけない。ミーティングは必ず『ありがとうございました!』という言葉で締めます。断られたショックで、それを忘れてしまう人がけっこういるんだけど。私はお会いしていただいた方には、必ず手紙かメールを書くことにしています。今回はご縁がなかったかもしれないけれど、共鳴してくださったことに感謝しますと。それから、これとこれを指摘してくださってありがとうございます、こんなことを学ばせていただきました。これからも頑張りますので、また見ていてくださいって。すると3年後とかに連絡があって、どんと寄付をしてくださったりするんですよ。『ずっとあなたたちのことを見ていました』って。そういう方たちがほんとうにたくさんいて、今では私たちの学校の強力な支援者になってくださっているんです」
1974年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒。スタンフォード大学国際教育政策学修士課程修了。2008年から現職。ISAK設立に関しては石川拓治著『茶色のシマウマ、世界を変える』に詳しい。