マツダにはクリーンディーゼルがある

マツダの基幹車種に成長した「CX-5」。

第二に、新発売のとき、ガソリンエンジン仕様と同時にディーゼルエンジン仕様のモデルも市場に投入したことが奏功した。2012年当時、国内の乗用車市場においてディーゼルエンジン仕様車に対する一般の関心は非常に低かった。それまで輸入欧州車では設定があったものの、国内の消費者の間には、ディーゼルには排気ガスに問題があり、しかも振動・騒音が大きいという固定観念のようなものが根強く残っていた。

それが証拠に、CX-5が発表される前年、つまり2011年1年間の国内におけるディーゼル仕様の乗用車の登録はわずかに8801台。全登録乗用車234万7671台という数字と比較すればほぼ皆無といってもよい状態だった。そんな市場にマツダがディーゼル仕様車を投入したのだ。当時マツダが設定したCX-5の月間販売目標台数は1000台。これはガソリンとディーゼル仕様合わせての数字であることを考慮すると、マツダ自身ディーゼル仕様車の販売にそれほど確信があったとはお世辞にも思えない。

ところが、CX-5は化けた。いざふたを開けてみると、ディーゼル仕様車が売れた。輸入車のオーナーまでもがマツダのディーラーを訪問、販売担当者が驚くという現象まで起きた。この事実は、国内のディーゼル仕様車の市場が必ずしも不毛だったのではなかったことを意味している。そうではなく、実態は、ディーゼル仕様車を望んでいる顧客に対するメーカーの品揃えのほうが不毛だったのだ。

CX-5はそこに挑戦した。その結果として、「マツダにはクリーンディーゼルがある、それを裏付ける技術がスカイアクティブらしい」という評価が消費者に広がっていった。

それまでの国内市場における、環境性能に優れた乗用車は「電気、あるいはハイブリッド車」という一般的な消費者にとっての通説に風穴が開いた瞬間だった。いや、マツダが、CX-5が、風穴を開けた、と言っても許されるだろう。

実際に、CX-5が発売された2012年2月以降、国内のディーゼル乗用車の登録は急増する。同年1年間で前年の8801台に対して4万0201台という数字を記録。増加率はなんと4.6倍。そのうちCX-5は2万6837台。11月に発売されたアテンザのディーゼル仕様車と合わせると総計2万8916台、ディーゼル仕様車の国内市場占有率は72パーセントとなった。

つまり、この年に販売されたディーゼル乗用車10台のうち7台がマツダ車ということになる。また、視点を変えれば、マツダ・ブランド以外のディーゼル仕様車も1万1285台売れているわけで、こちらも前年比28パーセントの増加率を示している。ということは、マツダがこの市場を牽引したことは間違いない。

初代CX-5発表当初の販売台数の目標値を振り返ってみよう。国内で月間1000台、全世界では年間16万台、という数字だった。いざふたを開けてみると国内は、ディーゼル仕様車だけでその目標数値の2.5倍を売った。一方で、世界の販売台数は1年間に15万9652台を記録した。国内の販売が爆発していたのに、結果的に全世界の販売実績が目標とほぼ同じというのはどこか腑に落ちない。意地悪な見方をすれば、当時のマツダの“本音の”販売目標(したがって生産計画)は、もっと低い数字だったに違いない。その傍証もある。2012年の新入社員は、新人研修期間中に宇品の生産ラインに長期間投入されている。ウソから出たまこととまでは言わないにしても、マツダにとってCX-5のこうした好調は嬉しい誤算だったとは言えるだろう。

以上のふたつの理由が、CX-5に成功をもたらし、同社の基幹車種へと成長させた。