偶然や変化の価値

【若新】「出島」の例えはすごく納得です。JK課は、鯖江という地方のまちだからこそ実現できたと思っています。できあがった大規模なシステムを中央部分から変えるのは難しいですよね。でも、危機感を持った辺境地や小さい端っこのほうは、案外ルールなどを崩しやすい。JK課は、日本社会の「出島」で起きた変化なのかもしれません。

企業も「イノベーティブな組織をつくろう」と言いながら、いきなり本丸を変える勇気はない。そうであれば、価値や尊厳が認められた「社内出島」をつくって、そこで活躍できそうな人を配置するのがいいと思います。

藤原和博(ふじはら・かずひろ)●奈良市立一条高等学校校長。1955年、東京都生まれ。78年東京大学経済学部を卒業後、リクルートに入社。東京営業統括部長、新規事業担当部長、ヨーロッパ駐在などを経て、96年同社フェローとなる。2003年より、都内では義務教育初の民間出身校長として杉並区立和田中学校に5年間勤務。その後橋下徹知事時代の大阪府教育委員会の教育政策特別顧問などを経て、2016年より現職。著書として『人生の教科書[よのなかのルール]』『リクルートという奇跡』『必ず食える1%の人になる方法』『藤原先生、これからの働き方について教えてください』など77冊。
奈良市立一条高等学校
http://ichilab.jp

【藤原】僕がリクルートで新規事業を担当したとき、社内の一角にビーチパラソルと丸テーブルを置いて、そこだけモードを変えたんです。まさに出島です。インターネットが登場する前でしたが、もう一度メディアについて考えるという目的で、社内の変わり者を集めて議論しました。それがメディアファクトリーの立ち上げにつながるわけです。

出島が出島であるためには、目標数値でマネジメントしてはいけません。いろんな人が自由に立ち寄って、意見やアイデアを落としていくような場所であるべきです。そうでなければ化学変化は起きないでしょう。

【若新】藤原先生のお話には「変化」という言葉がよく出てきますが、僕も「変化」が新しい価値や報酬になると思ってます。でも、「変化に価値がある」ことを多くの人にイメージしてもらうのはなかなか難しいようで……。たとえば「JK課」を政策化するとき、僕は「年間計画はたてず、具体的な活動内容は本人たちに考えてもらう」ことを条件にしました。ところが議会からは、「税金を使う公共事業なのに、目標や計画をしないなど非常識だ」と言われ、なかなか理解してもらえませんでした。

それで今度はJK課が世間的な成功を収めると、「それはたまたまうまくいったんだろう」と言われる。でも、その「たまたま」が大事だと思うんです。想定外の「新しい何か」が生まれたことに価値がある。これをどう伝えていくのかは、僕の課題でもあります。

【藤原】目標を設定せずに結果として変化が起きた例は、僕が(杉並区立)和田中学校の校長を務めていたときにもあります。当時、杉並区23校中21位だった和田中の学力テストの成績が、英語・数学・国語でトップになりました。特に目標設定したわけではありません。さらに興味深いことに、「和田中学校区」が売りになって、周辺の地価が上昇したんです。地元の地主さんたちからは、「アパートの空室率が下がった」と感謝されましたよ。

僕が思うに、昨日より今日、今日より明日がよくなると実感できれば、実体経済までも動かしていく。変化とはそういうこと。もし実体経済を動かそうと狙ったとしても、そうはならなかったでしょうね。

【若新】なるほど。「変化」という状態をつくっていくと、前向きなエネルギーや動きが生じやすくなって、いい結果にもつながる。変化しやすい場所は実体経済につながる何かが起こりやすい、という価値があるんですね!