高齢者との会話のポイント

そして、ストレスを生むのが母との会話だった。

「年を経るにつれ、やりとりがかみ合わないことも増えてきました。お母さんはどうしたい? と声をかけても、そうねぇ、と会話が続かなかったりと、母の気持ちがわからなくなっていた」(西山さん)

中川氏は、西山さんの悩みである家族との話し合い、高齢の親とのコミュニケーションを円滑にするのに「会話分析」を活かせると語る。

「高齢者介護の場合、どうしても介護をする側は『自分が何をしてあげられるか』という思いで頭がいっぱいになってしまいます。でも、本当に大切なのは、介護される側本人の意思を尊重することです。会話分析でわかった大切なポイントは、『決定に巻き込む』ということ。会話のなかで、相手に参入する機会を与えることが重要なんです。たとえば、質問をするときは、『何をしたい?』『どこに行きたい?』といったWHATやHOWの質問よりはYESかNOで答えられる質問のほうがいい。同意しやすい『今日はお風呂入りたい?』『明日はデイサービスに行く?』と聞くのが好ましいと言えます」

また、施設に入れたり、同居を促すときなど、何かの決定をするときにも説得するように一方的に話しかけるだけではダメだという。話し続けるだけでなく、あえて発言の途中で「間」をつくって反応を見たり、本人の口から「○○したい」と言いやすくすることが大切なのだという。

ただ、親が同意しやすい、YES・NOで答えられる質問を考えるのは、離れて暮らす子供には難しい。また、親の望みをすべて叶えられるわけでもないので、家族や周囲にとって望ましい同意をどう導くのかも考慮しなければいけない。だからこそ、いつも親の近くで世話をしている第三者であるケアマネジャーと、コミュニケーションを密にとることが必要だ。ケアマネジャーと事前に話し合い、一定の合意をつくってから、親との会話に進むというステップを踏むのが望ましいだろう。

弁護士・ホームヘルパー2級 外岡 潤
東京大学法学部卒業後、2007年弁護士登録。09年、日本初の「介護・福祉系」を標榜する法律事務所「おかげさま」を開設。紛争を話し合いで解決する技術「メディエーション」の啓発に注力。
 
宇都宮大学地域デザイン科学部准教授 中川 敦
早稲田大学大学院博士課程修了。島根県立大学専任講師などを経て、現職。専門は福祉社会学と会話分析。現在、遠距離介護での会話分析への取材協力者を中川敦研究室HPで募集中。
(澁谷高晴=撮影)
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