病院に行きたくない、施設に入りたくないと主張する親
東京都内の家電メーカーで働く西山恵一さん(仮名・53歳)は、85歳の母の介護のために、毎週末実家のある愛知県に通っている。
父は7年前に肺がんで他界。西山さんは母親が80歳になるのをきっかけに東京で同居しようと提案したが、「お父さんと一緒に暮らしたこの家にいたい」と断られた。幸い認知症の兆候はなかったが、80を超え、日々衰えていく母の1人暮らしには不安が募った。
「父が存命の頃から付き合いのあったケアマネジャーと相談し、デイサービスなどを利用しながら、できるだけ家族で介護をしようと決めました。妻にわざわざ愛知まで行って介護に協力してくれなんてとても言えません。それで、仕事のない日はできるだけ親元に帰ろうと決めたんです」(西山さん)
西山さんはそうして、遠距離での介護を始めることになった。遠距離介護について、中川氏はこう言う。
「頻繁な帰省で身体的にも、精神的にも疲労が重なる。もちろん、経済的な負担も馬鹿になりません。親の在宅介護をいつまで続けられるのか。同居すべきか、施設で暮らしてもらうべきなのか。そんな悩みを抱える人は全国で1万5000人から3万人いると推察され、これからますます増加すると考えられます。そして遠距離介護での大きな問題が、離れて暮らす親とどうコミュニケーションをとるかなのです」
西山さんも最初は新幹線を利用していたが、経済的な負担も考え、高速バスを使うようになった。妻から「同居を勧めたのに1人暮らしするのはわがままなのでは」「どうして施設に入れないのか」と言われるのも辛かった。