私の仕事の仕方も、まずは「退路を断つ」が基本。いろいろ調べ取材もし、手応えを感じた時点で先にスタート宣言をするんです。走り出してから「しまった!」と思うこともありますが、私の人生、自分で自分を引っ張り続けてきたようなものですね。

少しぐらい「背伸び」することだって大事です。無理な背伸びはしなくていいのですが、1、2ランク上の人と付き合ったり、ボスが情報源にしているビジネス誌や専門書ぐらいは最低限読んでおくこと。背伸びしているうちに、自然と背が伸びてきます。それができるのも30代だからこそのこと。

小さくていいので、できるだけ成功体験を重ねておきましょう。なにより自信に繋がるし、先の人生に生きてきます。40代以降、「あのときあれだけできたんだから、今度も必ずできる」と自分の背中を押してやれるからです。

ただし、その成功体験に執着してはダメ。固執すると視野狭窄に陥って、次が見えなくなってしまいます。

私は、明治から昭和初期にかけて何度も日本経済を救った高橋是清の生涯を『天佑なり』という歴史経済小説に書きました。是清は33歳で初代特許局のトップになるまで、20回以上も職を変えた“転職の達人”です。立場や役職にこだわらず、新しい職場にも果敢に飛び込んでいきます。留学先の米国で奴隷として売られたり、他人の不始末で全財産を失ったりもしましたが、その失敗もすべて糧としています。

「なんとかなる」という楽観的な性格もあるけど、是清は“自立自存の人”。結局、自分は自分で助けるしかないのです。だからこそ是清は、過去の成功をさらりと捨て、また一から新しいことに挑戦できたんだと思います。

やり直すことは恥ずかしいことではありません。発展性のある転職もまた、30代のうちなら存分にできます。もっとも、私が国際金融の世界から、まったく異質な作家に転身したのは44歳のとき。やはり30代にしてきたことが、支えになった気がしますね。