まるでルームサービス

2つ目の特徴は、レストランに併設して「ワインショップ」をオープンさせたことです。コメール社はこのために新たに酒販免許を取得しました。すると、お客はレストランに来たついでにワインを買って帰ったり、あるいはショップで買ったワインをレストランに持ち込んでそこで飲んだりという使い方ができます。もちろんレストランと関係なく、単なるワインショップとしても利用可能です。

そして3番目はこれから導入する施策ではありますが、各居室への料理や飲み物のデリバリーです。レストランの出来立ての料理を、まるでホテルのルームサービスのようにお届けすることができるわけです。多くの飲食店にとって、デリバリー(出前)は売上を伸ばしていくためには取り組みたい方策ですが、実際の配達コストを考慮すると、二の足を踏んでしまうというのが現実です。ところが、このケースのように「エレベータで運ぶだけ」であれば、そのハードルはぐっと下がります。

つまり、今回のケースは飲食店を経営する側からすると、イートインにおける通常の売上は決して大きくないかもしれませんが、「貸切パーティ」「ワインの物販」「デリバリー」によって、プラスオンを期待できるというわけです。開業からまだ1カ月程度ですので、思惑通りに実際に進むかは未知数ではあります。それでも、こうした新しい試みは非常に興味深いものです。

この数年、「飲食店のビジネスモデルの常識」が変わりつつあります。レストランの名物メニューをネットで販売する。バーベキューやグランピング(最近流行りの贅沢なキャンプ)のように、アウトドアでセルフサービススタイルの飲食を楽しむ。これらは「限られた室内の席数をどれだけ稼働させられるか」という、これまでの前提からは大きく離れています。

また、「特定ターゲット向け」という観点では、社食や学食などでも新たな変化が生まれています。もちろん今後も一般的な飲食店がスタンダードであることには変わりはないはずですが、これまでの飲食店とは違う「顧客との繋がり方」そして「稼ぎ方」も、同時に考えていくべき時代になったと言えるでしょう。

子安大輔(こやす・だいすけ)●カゲン取締役、飲食プロデューサー。1976年生まれ、神奈川県出身。99年東京大学経済学部を卒業後、博報堂入社。食品や飲料、金融などのマーケティング戦略立案に携わる。2003年に飲食業界に転身し、中村悌二氏と共同でカゲンを設立。飲食店や商業施設のプロデュースやコンサルティングを中心に、食に関する企画業務を広く手がけている。著書に、『「お通し」はなぜ必ず出るのか』『ラー油とハイボール』。
株式会社カゲン http://www.kagen.biz/

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