SEALDsもプラグマティズム
ひるがえって日本はどうか。日本も北東アジアや南方の諸島から人々が集まり、入り交じった国だといわれる。ならばアメリカのように人種のるつぼ的な土壌はありそうだ。しかし、大賀氏は「穢(けが)れを清める文化がプラグマティズムと相反する」と難点を挙げる。
「いわゆる禊(みそぎ)です。交ざり合っているものを純化する精神が多様化をはばみ、排外的になりやすいのです」
会社では一度ミスをすると出世の可能性が消えてしまうこともあるし、異性とのスキャンダルも命取り。このような精神文化は、失敗すればするほど経験を積んだことになると評価するシリコンバレーとは真逆だ。
だが、ちょっと違う動きも出てきたと大賀氏は見ている。
「たとえばSEALDs(シールズ)の運動です。昔なら、ああいう活動はマルクス主義を思想の根拠とし、国家をひっくり返すくらいの勢いだったでしょう。でも、シールズは革命を起こすという意識はなく、特定秘密保護法や集団的自衛権の行使容認などの一つ一つに反対しています。しかも役割を終えたと思った時点で潔く解散してしまう。そういうところはかなり、プラグマティズムに近い」
近年、日本社会でも外国人は増えているし、日本企業で活躍する女性も増えてきた。以前よりは多様性が高まっている。そういう時代背景の中、若い世代にはプラグマティズムの考え方が広がっている可能性はあるだろう。果たして若い日本のプラグマティストたちから、第二のジョブズが出てくる日は来るのだろうか。
大賀祐樹
1980年生まれ。早稲田大学大学院社会科学研究科博士課程満期退学、博士(学術)。哲学(思想史)専攻。現在は聖学院大学で教鞭をとる。著書に『希望の思想 プラグマティズム入門』(筑摩書房)。
1980年生まれ。早稲田大学大学院社会科学研究科博士課程満期退学、博士(学術)。哲学(思想史)専攻。現在は聖学院大学で教鞭をとる。著書に『希望の思想 プラグマティズム入門』(筑摩書房)。
(Getty Images、AFLO=写真)